「減損の検討をしてください」と言われても、水道事業では何をどこまですればよいのか、迷う担当者は多いはずです。減損会計は、固定資産の帳簿価額が、実際の収益性に比べて大きくなりすぎていないかを確かめ、大きすぎる場合に帳簿価額を切り下げる仕組みです。ただ、水道事業の施設は事業全体で水を届けており、個々の施設が収益を生むわけではないので、民間企業の説明をそのまま当てはめにくい面があります。
この記事では、地方公営企業法施行規則の条文と、総務省が示している会計の指針をもとに、減損の判定の流れ、水道事業で実際に問題になりやすい場面、決算書での表示を整理します。実例として、仙台市水道局が包括外部監査の指摘を受けて、遊休資産の扱いを決めた経緯を読みます。
減損会計は、法令のどこに書かれているか
地方公営企業の減損会計は、平成26年度の予算・決算から適用された会計制度の見直しで導入されました(総務省「地方公営企業会計制度等の見直しについて」)。総務省の説明資料では、導入の理由を「固定資産の帳簿価額が実際の収益性や将来の経済的便益に比べて過大となっている場合に、適正な金額まで減額できる」ことと説明しています。
条文では、施行規則の中に次のように散らばっています。
| 内容 | 条文(地方公営企業法施行規則) |
|---|---|
| 減損が生じた固定資産は、帳簿価額から減損損失の額を減らす | 第8条第3項第2号 |
| 減損損失は、特別損失の一項目として区分する | 第4条第4項 |
| 有形固定資産の減損損失累計額は、帳簿価額から直接控除して表示する(控除項目として表示することもできる) | 第30条 |
| 無形固定資産・投資その他の資産も同様に表示する | 第31条・第32条 |
| 減損損失に関する注記を、会計に関する書類に付ける | 第35条第5号・第41条 |
条文だけでは、「兆候」や「認識」の中身は分かりません。それを説明しているのが、総務省の「地方公営企業が会計を整理するに当たりよるべき指針」(以下「指針」)の第4章第3「減損会計」です(指針(PDF))。条文は枠組み、判定の具体的な手順は指針で読む、と覚えておくと整理しやすくなります。なお、この指針のPDFの作成は平成24年です。実務では最新の通知や、自団体の会計規程も合わせて確認してください。
判定の流れ:グルーピング→兆候→認識→測定
指針が示す手順は、大きく4段階です。
| 段階 | やること | 指針の主な内容 |
|---|---|---|
| 1 グルーピング | 判定する単位を決める | 複数の固定資産が一体となってキャッシュ・フローを生み出す場合の、最小の集まり(固定資産グループ) |
| 2 兆候の把握 | 減損が生じている可能性があるかを確かめる | 損益・キャッシュ・フローの継続マイナス、使用方法の著しい変化、経営環境の著しい悪化、市場価格の著しい下落 |
| 3 認識の判定 | 兆候があれば、損失を計上するか判定する | 割引前の将来キャッシュ・フロー総額が、帳簿価額を下回れば認識する |
| 4 測定 | 計上する額を決める | 帳簿価額を回収可能価額(正味売却価額と使用価値のうち高い方)まで減らし、その差額を減損損失とする |
ここで大切なのは、兆候がなければ、認識の判定や測定には進まないことです。毎年すべての資産で将来キャッシュ・フローを見積もるわけではありません。まず兆候の有無を確かめ、その結果と理由を記録に残すのが、実務の中心になります。
水道事業のグルーピングと、兆候の見方
総務省の説明資料のグルーピングの整理は、次のとおりです。水道、交通、ガス、下水道の各事業は、事業全体でキャッシュ・フローを生み出すのが通例とされています。工業用水道、電気、病院は施設ごとに生み出すのが通例で、遊休資産や賃貸用不動産は個別資産ごとにグルーピングするのが適当とされています(同資料)。
つまり水道事業では、稼働している施設と管路は事業全体を一つの固定資産グループとして見るのが基本です。一方で、使わなくなった浄水場、使う予定のない土地は、個別に見る必要があります。
兆候のうち、実務で使われやすいのは営業活動のキャッシュ・フローや損益が継続してマイナスになる場合です。指針は、これらに一般会計や他の特別会計からの繰入金を含めるとしています。その額は、直前3事業年度の平均額を使います。さらに説明資料は、長期前受金戻入も収益に数えること、事業計画の上で赤字を見込んでいる場合は兆候なしと判断できることを示しています。
水道ラボの事業体カルテでは、全国の末端給水事業の経常収支比率の中央値は、令和6年度(2024年度)で106.7%、料金回収率は98.2%でした(国の公開データを水道ラボで集計)。経常収支は中央値で黒字の側にあり、事業全体が「継続してマイナス」になる団体は多くないと考えられます。ただし料金回収率は100%を下回っています。自団体の数字は事業体カルテで確認できます。
市場価格の下落は、土地で意識されます。総務省の説明資料は、帳簿価額から少なくとも50%程度以上の下落を目安に挙げています。
認識の判定:割引前のキャッシュ・フローを何年分見るか
兆候がある場合は、割引前の将来キャッシュ・フロー総額と帳簿価額を比べます。総額が帳簿価額を下回れば、減損損失を認識します。指針は、見積りの前提を次のように定めています。
- 見積りの期間は、固定資産の経済的残存使用年数、または固定資産グループの中の主要な償却資産の経済的残存使用年数
- 一般会計などからの繰入金は、直前3事業年度の平均額(難しい場合は合理的に見込まれる額)
- 将来キャッシュ・フローは、当該企業に固有の事情を反映した、合理的で説明可能な仮定に基づいて見積もる
- 現在の使用状況と、合理的な使用計画を考慮する
- 利息の支払額は、将来キャッシュ・フローに含めない
- 間接的に生じる支出は、関連する固定資産グループに合理的な方法で配分して控除する
見積りの前提は、判定の根拠として説明を求められる部分です。そのため見積りの前提を、経営戦略や更新計画と食い違わせないことが、判定の説明で最も重要になります。経営戦略の投資・財政計画との関係は、経営戦略の改定ポイントを参考にしてください。
複数の固定資産や固定資産グループの将来キャッシュ・フローの生成に寄与する共用資産は、関連する資産を含むより大きな単位で判定します(指針第4章第3の7)。
決算書への影響:特別損失と、長期前受金の取り崩し
減損損失を認識したら、帳簿価額を回収可能価額まで減らし、その額を特別損失に計上します。公営企業の場合は、これに加えて長期前受金への対応が必要です。
補助金などで取得した償却資産には、長期前受金(繰延収益)が立っています。指針は、こうした資産の減損処理を行ったときは、減損損失に対応する長期前受金を取り崩し、その額を特別利益に計上するとしています(第4章第3の8)。取り崩す額は、減額した額に、直前の長期前受金の額を直前の帳簿価額で割った割合を掛けて求めます(施行令第26条第2項、施行規則第21条第2項、指針第8章)。
数字で追ってみます。以下は水道ラボが作った仮の設例で、実在の団体のものではありません。
| 項目 | 金額 | 説明 |
|---|---|---|
| 帳簿価額 | 10億円 | 減損前の帳簿価額 |
| 割引前の将来キャッシュ・フロー総額 | 9億円 | 帳簿価額を下回るので、減損損失を認識する |
| 回収可能価額 | 7億円 | 使用価値7億円と正味売却価額5億円のうち、高い方 |
| 減損損失(特別損失) | 3億円 | 10億円−7億円 |
| このうち長期前受金に対応する額(特別利益) | 1.2億円 | 長期前受金が4億円で、帳簿価額に対する割合が40%。3億円×40% |
| 当期の損益への影響 | △1.8億円 | 特別損失3億円−特別利益1.2億円 |
補助金で取得した割合が高い資産ほど、損益への影響は小さくなります。この設例で、長期前受金の割合を補助金などで取得した部分の割合と読み替えると分かりやすくなります。長期前受金の仕組みは減価償却費と長期前受金戻入の記事で、貸借対照表での表示は貸借対照表の記事で整理しています。
なお、減損損失は現金の出ない費用で、資金には影響しません。総務省の様式イメージでは、キャッシュ・フロー計算書(間接法)の業務活動の欄に、減価償却費と並んで減損損失が足し戻される形で示されています(キャッシュ・フロー計算書の記事)。
実例:仙台市水道局が決めた「遊休資産の減損」のルール
仙台市は、平成28年度の包括外部監査で、水道事業の減損の扱いについて指摘を受けました(措置通知書(1)、措置通知書(2))。指摘の中身は、遊休土地(郷六地内用地)や休止浄水場について、正味売却価額が明らかでなく、減損損失の認識が不要だという根拠が確認できないこと、またダムの水利権について、減損の兆候はないとする判断の根拠付けが不十分であることでした。
仙台市水道局は、平成30年11月に「減損処理に関する事務取扱要綱」を制定しました。措置通知書によると、要綱の内容は次のとおりです。
| 対象 | 要綱での扱い | 結果 |
|---|---|---|
| 水道事業に属する固定資産全体 | (事業全体で一つのグループ) | 別に、遊休資産を個別に判定 |
| 用途廃止した施設、未利用地(帳簿価額が資産総額の0.1%以上のもの) | 遊休資産として、個別に減損損失の認識を判定 | 郷六地内用地:兆候があり、正味売却価額が帳簿価額を下回ったため、平成30年度決算で差額を減損損失に計上 |
| 釜房ダム(富田浄水場)の水利権(未利用水利24,000㎥/日) | 帳簿価額が資産総額の0.1%に満たない | 減損処理の対象外 |
| 宮床ダム(福岡浄水場)の水利権 | 稼働している施設の水利権で、遊休資産に当たらない | 減損処理の対象外 |
| 用途廃止していない休止浄水場 | 遊休資産に当たらない | 減損処理の対象外 |
| 用途廃止した富田浄水場のうち、今後全く使う見込みのない資産 | (減損ではなく除却の扱い) | 平成28年度決算で、帳簿価格をゼロとする有姿除却処理 |
この事例から、実務のヒントが3つ読み取れます。第一に、金額的重要性の基準(資産総額の0.1%)を、あらかじめ要綱で決めておくことです。第二に、休止しているだけの施設と、用途廃止した施設を区別することです。第三に、使う見込みのない資産は、減損ではなく有姿除却で整理する選択肢があることです。
ただし、要綱の基準は仙台市の判断で、他の団体にそのまま使えるものではありません。また、郷六地内用地の減損損失の金額は、この措置通知書には書かれていません。
実務のチェックリスト
減損の検討を求められたときの、確認項目です。
- 判定の単位は決まっているか。稼働中の施設は事業全体、遊休資産は個別、という整理を会計規程や要綱で示しているか
- 兆候の有無を、毎年確認する手順があるか。損益・キャッシュ・フロー、使用方法の変化、経営環境、市場価格の4つの観点で見ているか
- 遊休資産(用途廃止した施設、使う予定のない土地)の一覧を、固定資産台帳から抽出できるか。台帳の整理はアセットマネジメントと固定資産台帳の記事も参考になる
- 金額的重要性の基準を決めているか
- 兆候があった場合に、キャッシュ・フローの見積りの前提(期間、繰入金、使用計画)を、経営戦略と整合させて説明できるか
- 減損損失を計上するときは、対応する長期前受金の取り崩しと特別利益の計上を忘れていないか
- 注記(第41条)に、兆候があって損失を認識しなかった場合の理由も書いているか
まずは、使わなくなった施設や土地が帳簿に残ったままになっていないかを、年に一度、固定資産台帳で確かめることから始めるのが現実的です。
