経営戦略の改定ポイント――投資試算と財源試算をどうつなぐか

青い背景に水滴のマークを配した、水道ラボの記事画像

経営戦略の改定作業は、施設部門の更新計画、料金収入の見込み、企業債の借入れなど、多くの数字を一つの収支計画にまとめる仕事です。どこから手を付けるか迷い、作業が止まってしまうことも少なくありません。

この記事では、総務省の「経営戦略策定・改定ガイドライン」と確認リストを原文で確認しながら、改定で押さえる点を整理します。後半では、令和8年3月に改定した宮城県大崎市の経営戦略を例に、投資試算と財源試算のつなぎ方を見ていきます。

目次

経営戦略の中心は「投資・財政計画」

ガイドラインは、経営戦略を「中長期的な経営の基本計画」と位置づけています。その中心が投資・財政計画で、投資試算と財源試算を、収入と支出が均衡するよう調整した収支計画と定義されています(総務省「経営戦略策定・改定ガイドライン」第1章1)。

要素中身ガイドラインの主な求め
投資試算施設・設備への投資の見通し現状把握と将来予測、投資の目標(有収率・更新率・老朽化率・耐震化率など)、投資額の合理化、優先順位付けと平準化
財源試算料金・企業債・繰入金・国庫補助金などの見通し企業債残高や償還額、内部留保資金の分析、料金水準と改定時期の検討、繰入金の積算の考え方の明示
投資以外の経費人件費、委託料、修繕費、動力費など必要な額を確保したうえで効率化し、適切に算定する
投資・財政計画上の3つを合わせた収支計画計画期間内に純損益(法適用企業)が黒字になる形で策定する
総務省「経営戦略策定・改定ガイドライン」第1章2をもとに作成

計画期間は10年以上が基本です。ただし、投資試算と財源試算は、計画期間に限らず原則30年から50年超の長期で、高位・中位・低位など複数のパターンで行うよう求めています。

なぜ今、改定が求められているのか

総務省は令和4年1月の通知で、改定の際に次の内容を投資・財政計画に盛り込むよう求めました(「経営戦略」の改定推進について)。

  1. 今後の人口減少等を加味した料金収入
  2. 減価償却率や耐用年数等に基づく、老朽化を踏まえた将来の更新費用
  3. 物価上昇等を反映した維持管理費、委託費、動力費等の上昇傾向
  4. ①〜③を反映したうえで収支を保つための経営改革(料金改定、広域化、民間活用・効率化など)の検討
  5. ①〜④を情勢の変化に合わせて反映できるよう、3〜5年ごとに改定すること

同じ通知は、改定の期限を令和7年度までとし、水道事業の高料金対策や管路耐震化事業の地方財政措置について、令和8年度から、確認リストの必須項目を盛り込んだ改定を要件とする予定と示しました。令和8年度の繰出基準(「令和8年度の地方公営企業繰出金について」)でも、これらの繰出しの対象は「当該年度前5年度内に経営戦略を策定又は改定している」事業とされています。

令和7年3月31日時点で、上水道で経営戦略を策定済みの1,289事業のうち、改定済みは692事業(53.7%)、令和7年度に改定予定は455事業(35.3%)でした(総務省「公営企業の経営戦略の策定・改定状況」)。

指標(全国の中央値)令和元年度令和6年度
経常収支比率110.0%106.7%
料金回収率103.1%98.2%
給水原価(円/㎥)172.75185.55
管路経年化率15.9%24.5%
末端給水事業の中央値。国の公開データを水道ラボで集計

前回の戦略を作った頃と比べ、収支の余裕は小さくなり、管路の老朽化は進んでいます。料金回収率が100%を割る理由で見たように、費用の上昇に料金が追いついていない事業も増えています。

確認リストの「必須項目」を先に押さえる

総務省は、記載すべき事項を「経営戦略確認リスト」にまとめています。水道事業のリストは49項目あり、そのうち項目1〜17が必須項目です。リストの注記は、項目2〜4のすべてと、項目9〜14のうち少なくとも1つを満たすことを求めています。

項目番号内容
2今後の人口減少等を加味した料金収入を反映している
3減価償却率や耐用年数等に基づく、老朽化を踏まえた将来の更新費用を反映している
4物価上昇等を反映した動力費・修繕費・材料費等の上昇傾向を反映している
9〜14(1つ以上)料金改定の実施、資産の有効活用等による収入増加、広域化・共同化、アセットマネジメント、民間活用、その他の効率化・経営健全化の取組
その他の必須項目計画期間10年以上、計画期間内の収支均衡(均衡しない場合は収支ギャップ解消の方向性・体制・スケジュール)、毎年度の進捗管理と少なくとも5年に1回の見直し、議会・住民への公開 など
総務省「経営戦略確認リスト(水道事業)」(令和4年1月25日更新)から作成

改定を始める前に、前回の戦略をこのリストで点検すると、足りない項目がはっきりします。大崎市も審議会の資料で、前回の戦略には物価上昇の反映と経営健全化の取組方針が欠けていたため改定が必要だと説明しています(大崎市 第2回上下水道事業運営審議会 資料1)。

投資試算と財源試算をつなぐ手順

投資試算と財源試算は、別々に作って最後に足し合わせるものではありません。ガイドラインは、収支ギャップ(計画期間内に純損益が黒字にならない部分)が出たら、その原因に応じて項目を見直し、試算をやり直して均衡点を探すよう求めています。

  1. 施設部門から更新需要の推計(長期・複数パターン)を受け取り、計画期間の投資額と優先順位を決める
  2. 投資額に対する財源(企業債の充当率、国庫補助金、内部留保資金)を割り当てる
  3. 有収水量の予測から料金収入を見込み、物価上昇率を置いて投資以外の経費を見込む
  4. 純損益と資金残高、企業債残高の推移を確認する
  5. 収支ギャップが出たら、料金の見直し、投資の合理化(ダウンサイジング、長寿命化、先送り)、経費の見直しを組み合わせて試算をやり直す

ガイドラインは、安易に繰出金を増やして収支を均衡させることは適当ではないとしています。期間内に均衡させられない場合でも、収支ギャップ解消に向けた取組の方向性や検討体制・スケジュールは記載する必要があります。企業債の水準は、残高や毎年度の償還額を踏まえて決めます(指標は企業債の返済負担の記事を参照)。

実例:大崎市の改定(令和8年度〜17年度)

大崎市は、令和4年2月に改定した戦略で「10年間は料金改定を見込まない」としていました。しかし人口減少と物価上昇で想定との差が広がったため、新たな10年間の戦略に改定しました(大崎市水道事業経営戦略(令和8年3月改定))。試算の主な前提は次のとおりです。

項目大崎市の前提
投資施設整備・管路更新の見込み約145億円を、重要度・緊急度で見直して10年間で約135億円とする
企業債充当率の上限50%。30年債の利率は令和6年度の2.1%から毎年0.2%上昇、令和11年度以降3.15%と想定
経費職員給与費と委託料(包括委託以外)は毎年2.4%の上昇を見込む
料金収入令和17年度には令和6年度より3億6千万円程度の減少を予想
財源の目標計画の最終年度に経常収支比率105%以上、料金回収率100%以上
大崎市「大崎市水道事業経営戦略」(令和8年3月)から作成

料金を改定しない場合、令和17年度の料金回収率は72.66%、経常収支比率は78.83%まで下がる見通しです。そこで戦略では、令和11年度と令和15年度に料金改定を行うことを見込んでいます。

年度純損益(百万円)流動資産残高(億円)企業債残高(億円)
令和8年度△20646.1101.2
令和10年度△35834.497.2
令和11年度(料金改定①)14036.595.3
令和15年度(料金改定②)56146.590.9
令和17年度33765.289.9
大崎市「大崎市水道事業経営戦略」(令和8年3月)の収支計画から作成。残高は千円単位の計画値を億円に換算

料金改定までの3年間は赤字で、流動資産も減ります。改定後は黒字に戻り、企業債残高は少しずつ減っていく計画です。計画表から計算すると、令和17年度の経常収支比率は約108.6%です。料金を改定しない場合と改定する場合を並べて示すことで、改定が必要な理由を議会や住民に説明しやすくしています。大崎市の指標の推移は大崎市の事業体カルテで確認できます。

改定した後の進捗管理

ガイドラインは、経営戦略を「策定して終わりではなく」、毎年度の進捗管理と3〜5年ごとの改定を求めています。人事異動で担当者が代わることを前提に、誰がどのように検証し、何年で改定するかを戦略の中に書いておくことも求めています。

  • 毎年度の決算後に、投資・財政計画と実績の差(料金収入、投資額、企業債、資金残高)を比べ、原因を記録する
  • 経営比較分析表の指標で、類似団体との比較と経年変化を確認する(経営比較分析表の記事を参照)
  • 料金改定を見込む場合は、原価計算や資産維持費の考え方を早めに整理する(水道料金の算定の記事を参照)
  • 進捗状況を公表し、次の改定時期を明記する

総務省の「経営戦略策定・改定マニュアル」とQ&Aには、ひな形様式や記載例があります。改定の作業は、確認リストでの点検から始めると進めやすくなります。

参考資料

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この記事を書いた人

「Suido Lab」運営者。地方自治体の水道事業で財務・会計業務に長年携わってきた実務者です。予算編成や決算処理、起債シミュレーションなど、現場で培った知識をもとに、水道事業の財務や経営に関する情報をわかりやすく発信しています。研究発表や業界イベントへの参加経験もあり、実務と学びの両面から得られた知見を共有することを目指しています。専門的な内容をできるだけ平易に解説し、同じ立場の方々に役立つ情報を届けたいと考えています。

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