損益計算書は黒字なのに、手元の資金は減っている。水道事業の決算では珍しくないことです。理由は、管路や浄水場への投資と、企業債の元金の返済が損益計算書に表れないからです。
資金の動きを一枚にまとめたのが、キャッシュ・フロー計算書です。この記事では、札幌市水道局が公表している令和6年度の計算書を例に、読み方を整理します。
いつから、なぜ作るのか
キャッシュ・フロー計算書は、平成26年度の予算・決算から適用された地方公営企業の会計基準の見直しで、作成することになりました(総務省「地方公営企業会計制度の見直しについて」)。今は、決算にあわせて提出する書類の一つとして、地方公営企業法施行令の第23条に定められています。
予算にも、予定キャッシュ・フロー計算書を「予算に関する説明書」として添えます(施行令第17条の2)。予算と決算の両方に出てくる書類なので、1年間の資金の計画と実績を比べることができます。
3つの区分で資金の出入りを分ける
| 区分 | 中身 | 水道事業での主な項目 |
|---|---|---|
| 業務活動によるキャッシュ・フロー | 本業で生み出した資金 | 当年度純利益、減価償却費(足し戻す)、長期前受金戻入(差し引く)、未収金・未払金の増減、利息の支払 |
| 投資活動によるキャッシュ・フロー | 施設への投資などに使った資金 | 有形固定資産の取得(管路・施設の工事)、国庫補助金や一般会計からの繰入金の受入れ、加入金 |
| 財務活動によるキャッシュ・フロー | 借入れと返済の資金 | 企業債による収入、企業債の償還、一般会計からの出資 |
3つの合計が、その年度の資金の増減です。期首の資金残高に足すと、期末の資金残高になります。
業務活動の欄は「純利益に現金の出ない項目を足し引き」する
業務活動の欄は、当年度純利益から出発し、現金の動きを伴わない項目を調整していく形で書かれています(間接法)。水道事業で大きいのは次の2つです。
- 減価償却費:費用として利益を減らしているが、現金は出ていかない → 足し戻す
- 長期前受金戻入額:収益として利益を増やしているが、現金は入ってこない → 差し引く
減価償却費は費用の約4割を占める大きな項目なので、業務活動のキャッシュ・フローは純利益よりかなり大きくなるのが普通です。この差額が、投資や返済に回せる資金の源泉になります(補てん財源との関係は収益的収支と資本的収支の記事を参照)。
実例:札幌市水道事業の令和6年度
| 項目 | 金額(億円) |
|---|---|
| 業務活動によるキャッシュ・フロー | 207.1 |
| うち当年度純利益 | 87.2 |
| うち減価償却費 | 126.1 |
| うち長期前受金戻入額 | △21.7 |
| うち利息の支払額 | △7.0 |
| 投資活動によるキャッシュ・フロー | △242.7 |
| うち有形固定資産の取得による支出 | △212.7 |
| うち国庫補助金等・一般会計からの繰入金・加入金による収入 | 10.8 |
| 財務活動によるキャッシュ・フロー | 5.3 |
| うち企業債による収入 | 45.0 |
| うち企業債の償還による支出 | △57.3 |
| 資金の増減 | △30.3 |
| 資金期首残高 → 期末残高 | 143.4 → 113.1 |
当年度純利益は87.2億円ですが、減価償却費126.1億円を足し戻すことなどで、業務活動のキャッシュ・フローは207.1億円になっています。一方、管路や施設の工事などに212.7億円を支出し、投資活動のキャッシュ・フローは242.7億円のマイナスでした。
業務活動と投資活動を合わせると約36億円の不足です。企業債は45.0億円を借り入れ、57.3億円を返済しており、借入れより返済が多い状態です。その結果、不足分を手元の資金で埋め、資金残高が30.3億円減ったという1年だったと読めます。なお、投資活動と財務活動には、一時貸付や出資など、事業の内容によって入る項目もあります。詳しくは札幌市の決算の概要で確認できます。
3つの区分の符号の組み合わせで読む
| 業務 | 投資 | 財務 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| + | − | − | 本業の資金で投資し、借入れも減らしている。資金に余裕がある |
| + | − | + | 本業の資金に借入れを加えて投資している。投資が多い時期によく見られる |
| + | − | ±0前後 | 本業の資金で投資をまかない、不足分は手元の資金で埋めている(札幌市の例に近い) |
| − | 本業で資金が生まれていない。料金水準や費用の見直しが急務 |
水道事業では、業務活動がプラス、投資活動がマイナスになるのが通常の形です。注目したいのは、業務活動のプラスで投資活動のマイナスをどこまでまかなえているかです。業務活動と投資活動の合計(フリー・キャッシュ・フロー)がマイナスの年が続くと、借入れか手元資金の取り崩しに頼ることになります。
一緒に確認したい3つの資料
- 予定キャッシュ・フロー計算書(予算に関する説明書):計画と実績の差と、その理由
- 企業債明細書:借入れと償還の予定、残高の推移
- 貸借対照表の現金預金:資金残高が、運転資金や災害への備えとして十分か
数年分のキャッシュ・フロー計算書を並べると、投資のピークや借入れの方針の変化が見えてきます。札幌市の経営指標は札幌市の事業体カルテで、規模の近い大都市と比べられます。損益・資金・借入れの3つを並べて見ることが、財務の全体像をつかむ近道です。

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