施設部門から「更新需要の推計を出したので、財政計画に反映してほしい」と資料が回ってきたものの、何を前提にした数字なのか分からない。会計担当者なら、一度はこうした場面があると思います。更新需要は、固定資産台帳の数字を土台に計算されることが多く、会計の知識がそのまま使える分野です。
この記事では、水道法が求めている台帳と収支の見通し、国の「アセットマネジメントに関する手引き」の考え方を確認し、小松市の公表資料で実際の推計を見ます。経営戦略との関係は経営戦略の改定ポイントの記事で扱っているので、ここでは更新需要の中身に絞ります。
水道法が事業者に求めていること
アセットマネジメントという言葉は、水道法の条文には出てきません。ただし、その中身にあたる3つの義務が、水道法の第22条の2から第22条の4に定められています(令和8年10月時点の条文で確認)。
| 条文 | 求めていること | 主な省令の定め(水道法施行規則) |
|---|---|---|
| 第22条の2 | 水道施設の維持と修繕 | 点検は適切な時期に行う。コンクリート構造物などは、おおむね5年に1回以上(第17条の2) |
| 第22条の3 | 水道施設台帳の作成と保管 | 調書と図面で組成する。管路は設置年度・口径・材質・継手形式・延長を記載(第17条の3) |
| 第22条の4 | 計画的な更新と、収支の見通しの作成・公表(努力義務) | 30年以上の期間で試算し、10年以上を基準とした期間の見通しを公表。おおむね3〜5年ごとに見直す(第17条の4) |
とくに会計に関わるのは第22条の4です。条文は、更新に要する費用を含む収支の見通しを作成し、公表するよう努めることを求めています。省令は、まず30年以上の期間で長期的な収支を試算し、そのうえで10年以上を基準とした期間の見通しを公表する、という二段構えにしています(水道法施行規則 第17条の4)。
「水道施設台帳」と「固定資産台帳」は別のもの
台帳という言葉が2つ出てきて、混同しやすいところです。
| 水道施設台帳 | 固定資産台帳 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 水道法第22条の3 | 会計上の資産管理(公営企業会計の固定資産の帳簿) |
| 主な管理者 | 施設・管路の担当部署 | 会計・財務担当 |
| 中身 | 設置年度、口径、材質、延長、能力など(省令の調書) | 取得年度、取得価額(帳簿原価)、減価償却累計額、耐用年数など |
| 更新需要での役割 | 管路の布設年度別延長の元データ | 構造物・設備の再投資価格の元データ |
省令が定める水道施設台帳の調書には、取得価額の記載事項がありません。逆に、固定資産台帳には口径や材質のような技術情報が十分に入っていないことがあります。手引きが「更新需要の推計は、各種台帳の記載データが基本」としているのは、この2つを突き合わせて初めて推計の元データになるためです。
手引きが示す、更新需要の計算の流れ
厚生労働省は平成21年7月に「水道事業におけるアセットマネジメント(資産管理)に関する手引き」を公表しました。手引きは、アセットマネジメントを、水道施設のライフサイクル全体にわたって効率的に管理運営する実践活動と定義し、中長期(おおむね30〜40年以上)の視点で更新需要と財政収支の見通しを検討するものとしています(手引き 第Ⅰ編〜第Ⅱ編の説明資料)。
更新需要の計算は、次の手順で進めます。
- 施設ごとに「再投資価格」を整理する。構造物と設備は、固定資産台帳の帳簿原価を物価上昇分(デフレータ)で補正した価格。管路は、布設年度別の延長に布設単価を掛けた価格
- 更新を全く行わない場合の健全度を確認する
- 全施設を法定耐用年数で更新した場合の投資総額(検討期間30〜40年)をつかむ
- 重要度・優先度の高い施設は法定耐用年数で、それ以外は更新までの期間を延ばして更新するケースを検討する
- 点検や診断の結果に基づき、耐震化が急ぐ施設は前倒し、延命できる施設は先延ばしにするケースを検討する
会計担当者が最初に確認したいのは、1つ目の再投資価格です。取得時の帳簿原価をそのまま使うのか、物価上昇を補正した現在価格なのかで、推計額は大きく変わります。
手引きは、台帳の整備状況に応じて検討の精度を選ぶ仕組みになっています。更新需要は「タイプ1〜4」、財政収支は「タイプA〜D」で、標準的な検討は、更新需要がタイプ3、財政収支がタイプCです。
| 更新需要のタイプ | 前提となるデータ |
|---|---|
| タイプ1(簡略) | 固定資産台帳がない場合。年度ごとの工事費で検討 |
| タイプ2(簡略) | 固定資産台帳はあるが、更新工事と整合がとれない場合。工事単位のデータで検討 |
| タイプ3(標準) | 更新工事と整合した、個別の資産単位のデータがある場合 |
| タイプ4(詳細) | 将来の水需要を踏まえ、再構築や規模の適正化まで考慮する場合 |
固定資産台帳の整い具合が、そのまま推計の精度を決めるということです。台帳の取得年度や資産の区分が実態とずれていると、更新時期の算定そのものが狂います。
財政収支への反映――見るのは内部留保資金の残高
更新需要が出たら、財政収支の見通しに反映します。手引きは、更新需要のケース別に簡易なシミュレーションを行い、資金収支から損益勘定留保資金等の累計額(内部留保資金)をチェックすることを示しています。企業債で資金を確保する場合は、起債比率も確認します。
ここで効いてくるのが、会計の仕組みです。更新が進むと、新しい資産の減価償却費が増えます(減価償却費と長期前受金戻入の記事)。企業債を借りれば、償還元金と支払利息も増えます。手引きの図でも、減価償却費、償還元金、支払利息は、既存施設分と将来の更新施設分の両方を見込むとされています。更新需要の金額だけを見て判断すると、数年後に効いてくるこれらの費用を見落とします。
内部留保資金の水準の考え方は内部留保資金の記事にまとめています。
小松市の例:法定耐用年数どおりだと、実績の約11倍
実際の推計がどのくらいの規模になるかは、小松市が公表している「小松市水道事業アセットマネジメント策定業務 概要版」で確認できます。令和6年度末時点の固定資産台帳をもとにした検討です(小松市 概要版)。更新需要を6つのケースで比較しており、主な内容は次のとおりです。
| ケース | 考え方 | 更新需要(40年平均) | 資料の評価 |
|---|---|---|---|
| ① | 法定耐用年数で更新 | 46.0億円/年 | 実績(5か年平均4.2億円)と比べて現実的ではない |
| ② | 更新基準年数で更新 | 30.2億円/年 | 実績と比べて現実的ではない |
| ③ | 管路AI診断の結果で更新 | 24.7億円/年 | 実績と比べて現実的ではない |
| ⑤(採用) | 上限額を設定(施設4.00億円、管路6.00億円) | 10.0億円/年 | 既存の耐震化計画や財政状況を踏まえ、現状の職員体制で対応できる範囲 |
| ⑥ | 上限額を設定(施設4.00億円、管路12.00億円) | 16.0億円/年 | 財政負担が大きく、職員の大幅な増員が必要 |
法定耐用年数どおりに更新した場合の46.0億円は、直近5年の実績4.2億円の約11倍です。資料はこれを現実的ではないとして、更新基準年数の見直しや管路AI診断で延ばしたうえで、施設と管路を合わせて年10億円という上限を置くケースを採用しています。
そのケースで財政収支を見ると、料金を据え置いた場合は令和25年度に料金回収率が100%を下回り、補てん財源の残高は令和32年度になくなるとされています。事業を続けるには、令和25年度に11.0%の料金改定が必要で、以降も5年ごとに0.9〜14.2%の改定が必要になる、という結果です。
1つの資料の数字ですが、手順は他の団体にも共通します。「理論上の更新需要」を出し、実績や体制と比べて上限を置き、その財源を料金・企業債・内部留保でどう賄うかを試算する、という流れです。
全国の管路の状況と、会計担当が確認したいこと
総務省の経営指標の概要では、管路更新率は「当該年度に更新した管路延長÷管路延長」で、2.5%なら全管路の更新に40年かかるペースと説明されています(経営指標の概要(水道事業))。国の公開データを水道ラボで集計すると、末端給水事業の中央値は次のとおりです。
| 年度 | 管路経年化率(法定耐用年数を超えた管路の割合) | 管路更新率 |
|---|---|---|
| 2015年度 | 8.1% | 0.44% |
| 2018年度 | 13.8% | 0.48% |
| 2021年度 | 18.7% | 0.45% |
| 2024年度 | 24.5% | 0.42% |
経年化率は9年間で8.1%から24.5%へ上がった一方、更新率は0.4%台で動いていません。単純計算で、2024年度の更新率0.42%が続くと全管路の更新に約240年かかります。自団体の位置は事業体カルテで確認できます。
更新需要の推計を受け取ったとき、会計担当者が確認したい点を挙げます。
- 再投資価格は、帳簿原価か、物価補正後の現在価格か
- 更新基準(更新までの年数)は、法定耐用年数か、実使用年数や診断結果に基づく独自の年数か
- 台帳の取得年度や資産区分は、実態とずれていないか(タイプ3で検討できる状態か)
- 更新需要に上限を置いているなら、その根拠(実績、職員体制、財源)は何か
- 財政収支への反映で、新規資産の減価償却費と企業債の償還・利息を見込んでいるか
これらを施設部門と共有できれば、更新需要の数字は「受け取るもの」から「一緒に検証するもの」に変わります。水道DXで台帳データを整備した例は会津若松市と佐賀市の事例で紹介しています。
