減価償却費と長期前受金戻入――損益を動かす「現金の出ない」2つの項目

青い背景に水滴のマークを配した、水道ラボの記事画像

水道事業の損益計算書で、いちばん大きな費用はたいてい減価償却費です。そして収益の側には、長期前受金戻入という、現金の入ってこない収益が載っています。

この2つは、どちらも現金の動きを伴わないのに、損益を大きく動かします。平成26年度の会計基準の見直しで今の形になった項目なので、仕組みを押さえておくと、決算書や経営指標がぐっと読みやすくなります。

目次

減価償却費:施設の取得費を、使う年数に分けて費用にする

浄水場や管路は何十年も使うので、取得した年に全額を費用にはしません。法定耐用年数に応じて、毎年少しずつ費用にしていきます。これが減価償却費です。耐用年数は、地方公営企業法施行規則の別表第二号に定められています。

資産(水道用の構築物)法定耐用年数
取水設備40年
導水設備50年
浄水設備60年
配水設備60年
配水管40年
配水管附属設備30年
地方公営企業法施行規則 別表第二号から作成

定額法の場合、毎年の償却額は、帳簿原価から10%を引いた額に、耐用年数に応じた率を掛けて計算します(施行規則第15条)。償却額の累計は、帳簿原価の95%までです。

水道は施設の比重が大きい事業なので、費用に占める減価償却費の割合は高くなります。国の公開データを水道ラボで集計すると、2024年度の末端給水事業では、費用に占める減価償却費の割合の全国中央値は41.8%でした。人件費(9.2%)や委託費(11.1%)を大きく上回ります。

長期前受金戻入:補助金などで取得した分を、償却に合わせて収益にする

施設を造るときには、国庫補助金や一般会計からの繰入金が入ることがあります。これらは、受け取った年に全額を収益にするのではなく、いったん「長期前受金」として貸借対照表の負債(繰延収益)に計上します。そのうえで、その資産の減価償却に合わせて、毎年少しずつ収益に振り替えるのが長期前受金戻入です(施行規則第21条)。

振り替えた額は、営業外収益として計上します。また、施設の取得に充てた企業債の元金を返すために一般会計から繰り入れたお金も、同じように長期前受金として扱います(同条第3項)。

平成26年度より前は、補助金で取得した部分を減価償却しない「みなし償却」を選ぶことができました。総務省はこの制度を廃止し、今の長期前受金の方式に統一しました。みなし償却を採るかどうかで財務諸表の形が大きく変わり、団体間の比較が難しかったことが理由の一つです(総務省「地方公営企業会計制度の見直しについて」)。

総務省の例で、数字の動きを追う

総務省の資料にある例で確認します。補助金50億円と企業債50億円で、100億円の施設を取得したとします。耐用年数は10年、残存価額は0円、定額法で償却する前提です。

毎年の金額6年後の貸借対照表
資産(施設)減価償却費 10億円(費用)100億円 − 償却累計60億円 = 40億円
長期前受金長期前受金戻入 5億円(収益)50億円 − 収益化30億円 = 20億円
企業債(元金の償還は費用にならない)50億円 − 償還30億円 = 20億円
総務省「地方公営企業会計制度の見直しについて」の設例から作成

費用には減価償却費が10億円計上されますが、そのうち補助金で取得した半分に見合う5億円は、長期前受金戻入として収益に戻ってきます。損益への実質的な影響は、自前の財源で取得した部分の償却費ということになります。

営業損益と経常損益で、効き方が違う

減価償却費は営業費用に入ります。一方、長期前受金戻入は営業外収益です。そのため、営業損益では減価償却費の全額が効き、経常損益の段階で長期前受金戻入の分が戻ってきます。

水道事業の損益計算書で、営業損益が赤字なのに経常損益は黒字、という形をよく見かけるのはこのためです。営業損益だけを見て「赤字」と判断しないように注意が必要です。

経営指標にも影響します。経営比較分析表の給水原価は、経常費用から長期前受金戻入を差し引いて計算します(総務省「経営指標の概要(水道事業)」)。補助金などでまかなった部分は、料金で回収する原価に含めないという扱いです。

お金の面では「減価償却費 − 長期前受金戻入」が手元に残る

減価償却費は現金が出ていかない費用、長期前受金戻入は現金が入ってこない収益です。そのため、キャッシュ・フロー計算書の業務活動の欄では、純利益に減価償却費を足し戻し、長期前受金戻入を差し引きます。

札幌市水道事業の令和6年度では、減価償却費が126.1億円、長期前受金戻入が21.7億円でした(キャッシュ・フロー計算書)。差し引き約104億円が、現金の出ていかない費用として手元に残り、建設改良や企業債の償還に回せる財源になります。資本的収支の不足を埋める補てん財源の中心がこの部分です(詳しくは収益的収支と資本的収支の記事)。

決算書のどこを見るか

書類見る場所
損益計算書営業費用の減価償却費、営業外収益の長期前受金戻入
貸借対照表繰延収益の長期前受金と、その収益化累計額
キャッシュ・フロー計算書業務活動の欄の減価償却費(足し戻し)と長期前受金戻入額(差し引き)
固定資産明細書資産の種類ごとの取得価額と減価償却累計額

数年分を並べると、更新投資が増えて減価償却費が伸びていく様子や、補助金の比率の変化が見えてきます。自団体の費用構成を全国や類似団体と比べるときは、事業体カルテで、減価償却費や人件費の割合の推移を確認できます。

参考資料

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この記事を書いた人

「Suido Lab」運営者。地方自治体の水道事業で財務・会計業務に長年携わってきた実務者です。予算編成や決算処理、起債シミュレーションなど、現場で培った知識をもとに、水道事業の財務や経営に関する情報をわかりやすく発信しています。研究発表や業界イベントへの参加経験もあり、実務と学びの両面から得られた知見を共有することを目指しています。専門的な内容をできるだけ平易に解説し、同じ立場の方々に役立つ情報を届けたいと考えています。

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