決算書を開くと、損益計算書の次に貸借対照表が載っています。純利益や料金回収率は気にしても、貸借対照表はあまり読まないという人も多いのではないでしょうか。ただ、手元の資金は足りているか、借入れに頼りすぎていないかといった「体力」は、貸借対照表でしか確認できません。
この記事では、法令で決められた貸借対照表の区分を確認したうえで、山口県防府市の令和6年度決算の数字を使って、流動比率・自己資本構成比率などの指標を計算します。全国の水道事業の値とも比べます。
貸借対照表は、決算日の「財政状態」を表す
貸借対照表は、決算について作成する書類の一つです(地方公営企業法第30条第9項)。損益計算書が1年間の経営成績を表すのに対し、貸借対照表は決算日(3月31日)時点の資産・負債・資本の状況を表します。
区分は政令と省令で決まっています。施行令第15条は、資本を資本金と剰余金に、負債を固定負債・流動負債・繰延収益に分けると定めています(地方公営企業法施行令)。資産の区分は施行規則第5条、負債は第7条にあります(地方公営企業法施行規則)。
| 区分 | 主な中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| 固定資産 | 有形固定資産(土地、建物、構築物、機械及び装置、建設仮勘定など)、無形固定資産、投資その他の資産 | 施行規則第5条第1項・第2項 |
| 流動資産 | 現金及び預金、未収金、貯蔵品など、1年内に現金化できるもの | 施行規則第5条第4項 |
| 固定負債 | 企業債(1年内に償還期限が来るものを除く)、他会計からの長期借入金、引当金など | 施行規則第7条第2項 |
| 流動負債 | 一時借入金、1年内に償還期限が来る企業債、未払金、1年内に使う引当金など | 施行規則第7条第3項 |
| 繰延収益 | 償却資産の取得に充てた補助金・負担金など(長期前受金) | 施行令第26条、施行規則第7条第4項 |
| 資本 | 資本金と剰余金(資本剰余金・利益剰余金) | 施行令第15条、施行規則第6条 |
様式は、施行規則第48条で別記第十三号様式に準ずるとされています。予算のときにも「予定貸借対照表」を作るので(施行令第17条の2)、予算担当にとっても無関係な書類ではありません。
「1年」で流動と固定を分ける
施行規則では、「一年内」を「当該事業年度の末日の翌日から起算して一年以内」と定めています(第5条第2項第3号イ)。この1年を境に、資産と負債を流動と固定に分けます。
会計担当として押さえておきたいのは、企業債の扱いです。同じ企業債でも、1年内に償還期限が来る元金は流動負債、それ以外は固定負債に入ります(施行規則第7条第2項第1号・第3項第2号)。翌年度の償還額が増えれば、借入れの総額が同じでも流動負債が増えます。
流動負債には、ほかに未払金(年度末に支払っていない工事代金など)も入ります。年度末に工事の支払いが集中すると、一時的に流動負債がふくらむことがあります。貸借対照表を前年度と比べるときは、こうした年度末の事情も確認しましょう。
長期前受金は「返さなくてよい負債」
水道事業の貸借対照表で特に分かりにくいのが、負債の部にある繰延収益(長期前受金)です。償却資産を取得するために受けた国庫補助金や負担金は、受けた額を繰延収益として整理し、その資産の減価償却に合わせて少しずつ収益に振り替えます(施行令第26条、施行規則第21条)。損益への効き方は減価償却費と長期前受金戻入で説明しています。
繰延収益は負債に区分されますが、企業債のように返済するものではありません。そのため、総務省の経営分析では、繰延収益を自己資本の側に入れて計算します。「自己資本=資本金+剰余金+評価差額等+繰延収益」です(総務省「地方公営企業年鑑」第72集)。
なお、施行規則第34条により、収益に振り替えた累計額は「収益化累計額」として表示します。繰延収益から収益化累計額を差し引いた残りが、これから収益になる額です。決算書では、控除項目として並べる書き方と、差し引いた後の額だけを載せて注記する書き方があります。
防府市の令和6年度決算で読んでみる
山口県防府市(給水人口104,012人)は、市民向けの「水道事業の決算概況」で、貸借対照表の内訳を公表しています(防府市「水道事業の決算概況(令和6年度決算)」)。総資産は246億7,665万円、負債総額は117億3,410万円、資本総額は129億4,255万円です。
| 区分 | 金額 | 構成比 |
|---|---|---|
| 構築物 | 184億632万円 | 74.6% |
| 土地 | 14億2,236万円 | 5.7% |
| 機械及び装置 | 11億7,566万円 | 4.8% |
| 建物及び附属設備・その他固定資産 | 12億1,803万円 | 4.9% |
| 現金・預金 | 21億1,186万円 | 8.6% |
| その他流動資産 | 3億4,242万円 | 1.4% |
| 固定負債 | 69億118万円 | 28.0% |
| 流動負債 | 7億5,397万円 | 3.1% |
| 繰延収益 | 40億7,895万円 | 16.5% |
| 資本金 | 119億159万円 | 48.2% |
| 資本剰余金・利益剰余金 | 10億4,096万円 | 4.2% |
資産の4分の3は、配水管などの構築物です。水道事業の資産は、ほとんどが地中や施設に固定されていて、すぐには現金にできないことがわかります。負債・資本の側では、資本金が約48%、企業債などの固定負債が28%を占めています。
防府市の企業債残高は、平成27年度の95億7,600万円から令和6年度は70億800万円まで減っています。一方で、同市は「物価の高騰に伴う工事費の増加により企業債の借入額の増加に伴い、残高も増えていくと見込んでいます」としています。貸借対照表は1年分の数字ですが、残高の推移と今後の見込みを合わせて読むことが大切です。
体力を測る指標:流動比率・自己資本構成比率・固定比率
貸借対照表から計算する主な指標と、全国の水道事業の値をまとめます。算式は総務省「地方公営企業年鑑」第72集の経営分析の算出方法です。全国の値は、同じ年鑑の「水道事業(14)累年貸借対照表及び財務分析表(法適用)」の令和6年度の値です。防府市の値は、上の決算概況の数字から水道ラボで計算しました(万円未満を四捨五入した数字から計算しているため、市の公表値とは少しずれることがあります)。
| 指標 | 算式 | 全国(令和6年度) | 防府市(試算) |
|---|---|---|---|
| 流動比率 | 流動資産 ÷ 流動負債 × 100 | 247.5% | 325.5% |
| 現金比率 | 現金預金 ÷ 流動負債 × 100 | 208.5% | 280.1% |
| 自己資本構成比率 | (資本金+剰余金+評価差額等+繰延収益)÷ 負債資本合計 × 100 | 74.3% | 69.0% |
| 固定負債構成比率 | 固定負債 ÷ 負債資本合計 × 100 | 21.2% | 28.0% |
| 固定比率 | 固定資産 ÷(資本金+剰余金+評価差額等+繰延収益)× 100 | 119.7% | 130.6% |
| 固定資産対長期資本比率 | 固定資産 ÷(資本金+剰余金+評価差額等+固定負債+繰延収益)× 100 | 93.1% | 92.9% |
流動比率について、総務省は「100%以上であることが必要」としています。そのうえで、100%を上回っていても現金が減少傾向にある場合や、一時借入金が増えている場合は、将来の見込みも踏まえた分析が必要としています。逆に100%未満でも、流動負債に含まれる建設改良のための企業債の返済原資を給水収益などで得る予定であれば、一概に支払能力がないとはいえないとも述べています(総務省「経営指標の概要(水道事業)」)。
防府市は、流動比率・現金比率とも全国を上回っています。一方、自己資本構成比率は全国より5ポイントほど低く、固定負債構成比率は約7ポイント高くなっています。施設の財源を企業債に頼る割合が比較的大きい、という読み方ができます。固定比率が100%を超えるのは、固定資産の一部を企業債でまかなっているためで、水道事業では珍しいことではありません。固定資産対長期資本比率が100%を下回っていれば、固定資産は長期の資金でまかなえていることになります。
決算書で確認したい5つのポイント
自団体の貸借対照表を読むときは、次の順に確認すると、比率の数字だけでなく、その理由まで説明しやすくなります。
- 現金預金の増減:前年度から減っていれば、キャッシュ・フロー計算書で、業務・投資・財務のどこで資金が出ていったかを確認する
- 流動負債の中身:1年内に償還する企業債、未払金、引当金のどれが増えたかを分けて見る
- 企業債の合計:固定負債と流動負債に分かれている企業債を足し、残高の推移を確認する
- 繰延収益:補助金を使った施設整備が多い年は増える。収益化累計額との関係も見る
- 注記:資産を担保に供しているか、企業債の償還を一般会計が負担する定めがあるか、保証債務があるかなどは、注記に書かれる(施行規則第39条)
流動比率と企業債残高対給水収益比率は、経営比較分析表の指標でもあります。分析欄の書き方は経営比較分析表の全指標を読むで紹介しています。同じ規模の事業体と比べた自団体の位置は、事業体カルテで確認できます。防府市のカルテはこちらです。
