経営比較分析表は、地方公営企業ごとに経営と施設の状況を1枚にまとめた表です。決算統計の数値から指標が計算され、各団体が分析欄を書き込んで公表します。
毎年この分析欄の作成を任されて、何を根拠に書けばよいか迷う人は多いと思います。この記事では、総務省の「経営指標の概要(水道事業)」をもとに11の指標の意味を整理します。そのうえで、札幌市の令和6年度の表を例に、読み方と分析欄の書き方をまとめます。
表は3つの部分でできている
| 部分 | 載っているもの |
|---|---|
| 上段:基本情報 | 類似団体区分、資金不足比率、自己資本構成比率、普及率、1か月20㎥当たり家庭料金、人口・面積、現在給水人口、給水区域面積など |
| 中段:グラフ | 11の指標の5年分の推移。当該団体の値(当該値)と類似団体平均値を並べ、【 】内に全国平均を示す |
| 下段:分析欄 | 「経営の健全性・効率性について」「老朽化の状況について」「全体総括」の3つ |
比べる相手は、給水人口などで分けた類似団体の平均値です。札幌市なら「政令市等」の区分に入ります。区分の一覧は、総務省の令和6年度決算 経営比較分析のページに掲載されています。
経営の健全性・効率性を見る8つの指標
| 指標 | 算式(法適用企業) | 見るポイント |
|---|---|---|
| ①経常収支比率 | 経常収益 ÷ 経常費用 × 100 | 100%以上が必要。100%以上でも、更新投資の財源が確保できているかを確認する |
| ②累積欠損金比率 | 当年度未処理欠損金 ÷(営業収益 − 受託工事収益)× 100 | 0%であることが求められる |
| ③流動比率 | 流動資産 ÷ 流動負債 × 100 | 100%以上が必要。流動負債には1年以内に返す企業債も入る |
| ④企業債残高対給水収益比率 | 企業債現在高合計 ÷ 給水収益 × 100 | 明確な基準はない。低くても、更新を先送りしているだけではないかを見る |
| ⑤料金回収率 | 供給単価 ÷ 給水原価 × 100 | 100%未満なら、給水にかかる費用を料金以外の収入で賄っている |
| ⑥給水原価(円) | (経常費用 −(受託工事費 + 材料及び不用品売却原価 + 附帯事業費)− 長期前受金戻入)÷ 年間総有収水量 | 明確な基準はない。経年と類似団体との比較で説明する |
| ⑦施設利用率 | 一日平均配水量 ÷ 一日配水能力 × 100 | 高いほうが望ましい。低ければ施設が過大でないかを見る |
| ⑧有収率 | 年間総有収水量 ÷ 年間総配水量 × 100 | 100%に近いほどよい。低ければ漏水やメーター不感を疑う |
法非適用の事業では、①は収益的収支比率(総収益 ÷(総費用 + 地方債償還金)× 100)に置き換わります。②累積欠損金比率と③流動比率は、法適用企業だけの指標です。⑤の料金回収率については、料金回収率が100%を割る理由で詳しく扱っています。
総務省の資料は、多くの指標に「明確な数値基準はない」と書いています。そのため、数値の高い低いより、経年の動きと類似団体との差を説明できるかが問われます。
老朽化の状況を見る3つの指標
| 指標 | 算式 | 見るポイント |
|---|---|---|
| ①有形固定資産減価償却率 | 有形固定資産減価償却累計額 ÷ 償却対象資産の帳簿原価 × 100 | 高いほど、法定耐用年数に近い資産が多い |
| ②管路経年化率 | 法定耐用年数を経過した管路延長 ÷ 管路延長 × 100 | 高いほど、更新が必要な管路が多い。今は低くても、今後耐用年数を迎える管路の量を見る |
| ③管路更新率 | 当該年度に更新した管路延長 ÷ 管路延長 × 100 | 2.5%なら、すべての管路を40年で更新するペース |
有形固定資産減価償却率と管路経年化率も、法適用企業だけの指標です。管路の法定耐用年数は40年です(地方公営企業法施行規則 別表第二号)。管路更新率が1%なら、全部を更新するのに100年かかる計算です。3つの指標はセットで読むように、と総務省の資料も書いています。
札幌市の令和6年度で読んでみる
| 指標 | 札幌市 | 類似団体平均値 |
|---|---|---|
| 経常収支比率(%) | 125.39 | 106.39 |
| 累積欠損金比率(%) | 0.00 | 0.00 |
| 流動比率(%) | 140.23 | 150.03 |
| 企業債残高対給水収益比率(%) | 129.75 | 199.14 |
| 料金回収率(%) | 117.71 | 95.27 |
| 給水原価(円) | 180.28 | 189.60 |
| 施設利用率(%) | 74.97 | 59.38 |
| 有収率(%) | 93.53 | 93.70 |
| 有形固定資産減価償却率(%) | 56.72 | 51.71 |
| 管路経年化率(%) | 23.21 | 29.51 |
| 管路更新率(%) | 0.85 | 0.86 |
収支の指標はどれも類似団体より良好です。企業債残高対給水収益比率は平均の3分の2ほどで、料金回収率は100%を大きく上回っています。一方で、有形固定資産減価償却率は平均より高く、管路更新率は前年度の1.13%から0.85%に下がりました。
札幌市の分析欄は、この点を正面から書いています。経営の健全性は良好としたうえで、施設の老朽化が進んでいることと、1980年代に大量に布設した管路がこれから耐用年数を迎えることを課題に挙げています。更新率の低下についても、事業費の増加や大規模な施設整備の影響があったことと、目標とした更新延長は達成したことを説明しています(札幌市水道局の公表ページ)。
指標の組み合わせで読む
総務省の資料には、指標を組み合わせて読む考え方も示されています。
| 組み合わせ | こうなっていたら |
|---|---|
| 経常収支比率 × 減価償却率・経年化率・更新率 | 収支が良くても、減価償却率と経年化率が高く更新率が低ければ、更新投資を先送りしている可能性がある |
| 経常収支比率 × 累積欠損金比率 | 経常収支比率が100%以上でも、累積欠損金が大きければ改善を続ける必要がある |
| 経常収支比率 × 料金回収率 | 経常収支比率が高くても、料金回収率が低ければ料金以外の収入に頼っている。料金の見直しを検討する |
| 施設利用率 × 有収率 | 施設利用率が高くても有収率が低ければ、配った水が収益につながっていない |
| 管路経年化率 × 管路更新率 | 経年化率が高く更新率が低ければ、更新投資を増やす必要性が高い |
札幌市は1行目に近い形です。収支の良さと老朽化の進み具合を、一緒に説明することが分析欄の要になります。
分析欄は「数値・理由・今後」の順で書く
分析欄は3つの欄に分かれています。どの欄も、次の順で書くと読み手に伝わりやすくなります。
- 数値:当該年度の値と、前年度や5年前からの動き、類似団体平均との差
- 理由:動いた理由(料金改定、有収水量の減少、企業債の借入れ、大規模工事など)
- 今後:見込みと、経営戦略や更新計画での対応
たとえば、管路更新率が下がった年なら「更新率は○%で前年度より低下した。浄水場の更新工事に事業費を充てたためで、○年度からは配水管の更新延長を○kmに戻す計画である」のように書きます。「良好である」「課題がある」だけで終わらせず、なぜそうなったのかと、次に何をするのかまで書くのがポイントです。
全体総括では、収支と老朽化の両方を1つの流れで説明します。給水収益の見通しと更新需要の見通しをつなげると、経営戦略の内容と一貫した説明になります。
作成前に、事業体カルテで下調べする
水道ラボの事業体カルテでは、全国の事業体の料金回収率、給水原価、有収率、管路経年化率、管路更新率などの推移を、規模の近い事業体と比べて見られます。経営比較分析表の作成前に、自団体の位置をつかむのに使えます。
ただし、カルテが比べているのは類似団体の中央値で、経営比較分析表の「平均値」とは少し違う値になります。平均値は一部の極端な値に引っぱられやすいので、両方を見比べると、自団体の位置がより正確にわかります。札幌市のカルテはこちらです。
