企業債の借入実務――協議・届出から、借入先と金利方式の選び方、繰上償還まで

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企業債の借入れは、水道事業の会計担当者が毎年のように関わる仕事です。ところが、借入先をどう選ぶか、金利方式や償還方法を何で決めるか、借りたあとに返し方を変えられるのかは、体系的にまとまった説明が少なく、前任者の引き継ぎに頼りがちです。

この記事では、地方財政法と同施行令の条文、財務省北陸財務局の「財政融資資金地方資金借入等の手引」、地方公共団体金融機構の貸付条件表をもとに、借入れの手続きと資金ごとの条件を整理します。実例として、福島県郡山市の令和6年度の水道事業会計決算書から、借入先別の企業債の動きを見ます。

目次

企業債を借りるまでの流れ

地方公共団体の歳出は、原則として地方債以外の歳入で賄うことになっています。ただし、水道事業などの公営企業に要する経費の財源にする場合と、地方債の借換えの財源にする場合は、例外として地方債を財源にできます(地方財政法第5条第1号・第3号)。企業債は、この例外にあたります。

実際の流れを、条文から読み取れる順にまとめると次のとおりです。

  1. 予算に企業債を記載する(地方公営企業法施行令第17条第1項第5号)。予算は議会の議決を受ける
  2. 起債の目的、限度額、起債の方法、資金、利率、償還の方法などを明らかにして、総務大臣または都道府県知事に協議する(地方財政法第5条の3第1項・第2項)。団体の状況によっては、届出または許可になる
  3. 同意を得た資金について、借入先に借入れを申し込む
  4. 借入れ・償還の実行。借入後に起債の方法、利率、償還の方法を変えるときも、原則として同じ手続きが必要になる(第5条の3第1項)

予算と、国・都道府県への協議は別の手続きで、どちらかが欠けても借りられません。年間のどの時期に何をするかは会計担当者の1年で整理しています。

協議・届出・許可:団体の状況で手続きが変わる

地方財政法は、団体の財政状況に応じて、国・都道府県との関わり方を3段階に分けています。

区分根拠対象になる場合内容
協議地方財政法第5条の3第1項原則総務大臣または都道府県知事に協議する。財政融資資金や地方公共団体金融機構資金などの公的資金は、同意を得た地方債でなければ借りられない(同条第7項)
届出同条第3項・第6項協議不要対象団体が、特定公的資金以外の資金(市場公募債や銀行等からの借入れなど)で起こす場合協議は不要だが、あらかじめ総務大臣または都道府県知事に届け出る
許可第5条の4第1項・第3項、施行令第23条実質公債費比率が18%以上の団体、繰越欠損金のある法適用の地方公営企業など総務大臣または都道府県知事の許可を受ける
地方財政法、同施行令の条文から作成(地方財政法は2026年6月3日施行、施行令は2026年5月1日施行の版)

施行令第7条によると、特定公的資金は「財政融資資金」と「地方公共団体金融機構の資金」を中心とする資金です。つまり、財政融資資金か機構資金を借りるときは協議が必要で、民間の資金を借りるときは、団体が協議不要対象団体であれば届出で足ります。ただし、資金不足額が一定の基準を超える公営企業は、民間資金でも協議が必要です(第5条の3第5項)。

自団体がどの区分に当たるかは、実質公債費比率と、公営企業の資金不足額、繰越欠損金の有無で決まります。これらの比率や指標の考え方は企業債の返済負担はどう測るかを参照してください。

借入先と、資金ごとの条件を比べる

水道事業の企業債の借入先は、大きく分けると次の3つです。

借入先性格手続き
財政融資資金国の財政投融資の資金。財務局(財務事務所)が窓口協議で同意を得た地方債に貸し付ける。貸付金利は、借入日現在の国債の利回りを基準に財務大臣が定める(毎月公表)
地方公共団体金融機構資金地方公共団体が共同で出資する機構の貸付同じく同意を得た地方債に貸し付ける。水道事業は「機構特別利率」の対象
民間等資金(市場公募・銀行等引受)金融機関からの借入れ、債券の発行協議不要対象団体は届出。金利は借入先との交渉などで決まる
地方財政法、財務省北陸財務局「財政融資資金地方資金借入等の手引」、地方公共団体金融機構「貸付条件表」から作成

民間等資金の金利や条件は、団体ごと・時期ごとに差が大きく、公表された統一の基準はありません。一次資料で確認できる範囲は、公的資金の条件までです。そこで、以下では財政融資資金と機構資金の条件を中心に見ていきます。

財政融資資金の償還期限と据置期間は、財務省が事業ごとの基準年数表で定めています。令和7年度の基準年数表では、水道事業は40年(据置5年)で、固定金利でも利率見直し方式でも同じです。

地方公共団体金融機構の令和8年度同意(許可)債(令和8年10月28日以降適用)の貸付条件表では、水道事業(上水道・簡易水道)は次の条件になっています。

金利方式償還期限据置期間利率利率の種類
固定金利方式30年以内5年以内3.900%機構特別利率
利率見直し方式40年以内5年以内3.100%機構特別利率
地方公共団体金融機構「貸付条件表」(令和8年度同意(許可)債、令和8年10月28日以降適用)から作成。利率は適用日により変わる

表の利率見直し方式の条件は、10年ごとに利率を見直す場合のものです。見直しの間隔は、借入後5年ごと・10年ごと・15年ごと・20年後・30年後から選びます(貸付条件表の備考)。償還方法は、どちらの資金も半年賦元利均等償還か半年賦元金均等償還から選べます。

同じ水道事業でも、機構資金の固定金利方式は30年が上限、利率見直し方式は40年まで借りられます。償還期間が長いほど毎年の返済額は軽くなりますが、見直し方式は、見直し時点の金利が上がると支払利息が増えるリスクがあります。期間を延ばすか、金利を固定するかは、更新投資のピークと収益の見通しを見て決めることになります。

金利方式と償還方法をどう選ぶか

財政融資資金では、金利方式は地方債計画の事業別の単位ごとに、固定金利方式か利率見直し方式かを選びます。一つの事業に複数の方式は設定できず、一度選んだ方式は、変更の申込みをしない限り続きます。変更するときは、資金年度の前年度の3月31日までに申込書を出す必要があります(財務局の手引)。償還方法は、借入れ1件ごとに、借入申込時に選べます。

選ぶもの選択肢考え方の目安
金利方式固定金利方式/利率見直し方式固定は返済額が確定するが、期間の上限は短い(機構資金で30年)。見直し方式は期間を長くとれるが、見直し時の金利に左右される
償還方法元利均等/元金均等元利均等は毎年の返済額が一定で、資金計画を立てやすい。元金均等は初期の返済が重いが、総支払利息は小さくなる
据置期間基準年数以内で選択据置の間は利息だけを払う。工事の完成から収益が出るまでの期間に合わせる
財務省北陸財務局「財政融資資金地方資金借入等の手引」、地方公共団体金融機構「貸付条件表」をもとに、考え方の目安を整理

目安の欄は、各資料の趣旨を踏まえた整理であり、基準として定められたものではありません。実際の判断では、貸借対照表で見る企業債残高と、内部留保資金の水準も合わせて確認してください。

実例:郡山市の令和6年度、借入先別の企業債

郡山市の令和6年度水道事業会計決算書には、企業債の借入先別の動きが載っています(郡山市「令和6年度 水道事業会計決算書」)。

借入先前年度末残高(円)当年度借入高当年度償還高(円)当年度末残高(円)当年度支払利息(円)
財務省(財政融資資金)4,540,105,4750494,694,4794,045,410,99663,726,859
地方公共団体金融機構682,090,3270120,438,773561,651,55412,800,347
合計5,222,195,8020615,133,2524,607,062,55076,527,206
郡山市「令和6年度 水道事業会計決算書」の「企業債の概況」から作成

この年度は新たな借入れがなく、償還だけが進んで、残高は約6億1,500万円減りました。借入先は、前年度末残高ベースで財政融資資金が約87%、機構資金が約13%です。民間資金はありません。

決算書の数字から、支払利息を年度初めと年度末の残高の平均で割ると、平均の利率は約1.56%です(財政融資資金分は約1.48%、機構資金分は約2.06%)。これは水道ラボの試算で、団体が公表した利率ではありません。

一方、同じ年度のキャッシュ・フロー計算書では、有形固定資産の取得に約39億円を支出しています。業務活動によるキャッシュ・フローは約29億5,000万円で、借入れなしでも投資の大部分を自己資金で賄えたことがうかがえます。借入れを抑えるか、投資を進めるために借りるかは、団体ごとの経営判断です。借入先別の残高と平均利率を毎年並べておくと、借入戦略の説明材料になります。

全国の状況として、支払利息が費用に占める割合の中央値は、2014年度の7.0%から2024年度の3.2%に下がっています(国の公開データを水道ラボで集計)。郡山市の個別の状況は事業体カルテ(郡山市)で確認できます。

借りたあとの見直し:繰上償還と借換え

借りたあとに返し方を変える手段は、おもに2つあります。繰上償還と借換えです。

財政融資資金の繰上償還には、約定に基づく強制的なものと、団体の都合による任意のものがあります。財務局の手引では、次のように整理されています。

区分場面主な条件
強制繰上償還借入後に国庫補助金などの交付決定を受けて、財源が増えた場合。事業費の減少で過充当になった場合など国庫支出金等交付決定申出書などを財務局に提出する。平成26年度資金からは、原則として加算金が求められる(貸付日の翌日から繰上償還日までの各償還日の貸付残高 ×(年3% − 貸付金利)の合計額)
任意繰上償還団体の財政等の都合で、約定より早く返す場合補償金の払込みが条件。繰上償還承認申請書を財務局に提出する。償還日は年6回(奇数月25日)。補償金の見込額は、財務局に問い合わせれば事前に知れる
財務省北陸財務局「財政融資資金地方資金借入等の手引」(令和8年1月)から作成。年3%は財務大臣告示の率で、手引の記載時点のもの

任意繰上償還では、金利が下がった時期でも、補償金を払う必要があるため、簡単に得になるとは限りません。繰上償還の前に、補償金の見込額を財務局で確認することが実務上の第一歩です。補償金を免除する特例の有無は、その時々の国の通知によるため、借入先に直接確認してください。

借換えについては、地方財政法第5条第3号が、借換えの経費を地方債で賄えると定めています。また、地方公営企業法第22条は、国が企業債の償還の繰延べ、借換えなどについて、法令の範囲内で、資金事情が許す限り、特別の配慮をすると定めています(地方公営企業法)。ただし、借換えで起債の方法、利率、償還の方法が変わる場合は、前述の協議などの手続きが必要です。

実務のチェックリスト

ここまでの内容を、担当者の確認項目にまとめます。

  • 自団体は、協議・届出・許可のどれに当たるか(実質公債費比率、資金不足額、繰越欠損金)
  • 予算に企業債の限度額を載せ、議決を受けているか
  • 借入先の候補(財政融資資金、機構資金、民間資金)と、それぞれの償還期限・据置期間・利率の条件
  • 金利方式(固定/見直し)と償還方法(元利均等/元金均等)を、投資のピークと収益の見通しで説明できるか
  • 財政融資資金の金利方式を変えたいときは、前年度の3月31日までに申込書を出すこと
  • 借入先別の残高、平均利率、償還額の推移を毎年整理しているか
  • 繰上償還を考えるときは、補償金の見込額を財務局に確認すること

企業債は、借りる段階の条件が、数十年先まで支払利息と返済額を決めます。条件表と決算書の数字を並べて、なぜその借入先・その方式を選んだのかを、後任にも説明できる形で残しておくことが大切です。

参考資料

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この記事を書いた人

「Suido Lab」運営者。地方自治体の水道事業で財務・会計業務に長年携わってきた実務者です。予算編成や決算処理、起債シミュレーションなど、現場で培った知識をもとに、水道事業の財務や経営に関する情報をわかりやすく発信しています。研究発表や業界イベントへの参加経験もあり、実務と学びの両面から得られた知見を共有することを目指しています。専門的な内容をできるだけ平易に解説し、同じ立場の方々に役立つ情報を届けたいと考えています。

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