水道事業の会計担当者の1年――予算編成から決算、議会認定までのスケジュール

青い背景に水滴のマークを配した、水道ラボの記事画像

水道事業の会計に異動してきて、最初に戸惑うのは「いつ、何をするのか」が見えないことではないでしょうか。一般会計とは決算の締め方も、書類の種類も違います。前任者の引き継ぎメモだけでは、業務の全体像がつかみにくいものです。

この記事では、法令で期限が決まっている業務を軸に、水道事業の会計担当者の1年を月ごとに整理します。団体によって細部は異なるので、自分の団体の規程や前年の資料と照らし合わせながら読んでください。

目次

まず押さえたい、一般会計との3つの違い

一般会計水道事業会計(地方公営企業)
会計の考え方現金主義(収入・支出の現金の動き)発生主義(費用と収益を発生した年度に計上。地方公営企業法第20条)
予算の区分款・項・目・節収益的収入及び支出(3条)と資本的収入及び支出(4条)。施行令第17条
決算の書類歳入歳出決算書など損益計算書、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書、明細書など
地方公営企業法・同施行令から作成

特に大きいのが発生主義です。3月31日までに発生した費用や収益は、支払・入金が4月以降でも、その年度の決算に計上します。年度末の「締め」の考え方が一般会計と違うことを、最初に意識しておくと混乱が減ります。3条・4条の違いは収益的収支と資本的収支の記事で詳しく説明しています。

法令で決まっている主な期限

業務期限・手続き根拠
予算の議決年度開始前に議会の議決を経る。原案は管理者が作成し、長が調製する地方公営企業法 第24条第2項
予算に関する説明書予算の実施計画、予定キャッシュ・フロー計算書、給与費明細書、予定貸借対照表などをあわせて提出法第25条、施行令第17条の2
建設改良費の繰越年度内に支払義務が生じなかった建設改良費は翌年度に繰り越せる。繰越額の使用計画を長に報告法第26条
決算の調製事業年度終了後2か月以内(5月31日まで)に、事業報告書などとあわせて長に提出法第30条第1項
監査委員の審査長が決算を監査委員の審査に付す法第30条第2項
決算の認定事業年度終了後3か月を経過した後、最初の定例会で議会の認定に付す(多くの団体では9月の定例会)法第30条第4項
資金不足比率の公表決算の提出を受けた後、速やかに監査委員の審査に付し、議会に報告して公表財政健全化法 第22条
法令の原文から作成

決算書類のうち、キャッシュ・フロー計算書、収益費用明細書、固定資産明細書、企業債明細書は、決算にあわせて提出する書類として施行令第23条に定められています。5月31日の決算調製が、1年の中でいちばん大きな締切です。

月ごとの業務の流れ

法令の期限をもとに、一般的な流れを月ごとに並べます。予算の査定や議会の日程は団体によって違うので、自分の団体の日程に置き換えて使ってください。

時期主な業務
4月前年度の決算整理(未払金・未収金の計上、減価償却、引当金の計上)。新年度予算の執行開始
5月決算の調製(5月31日まで)。事業報告書、キャッシュ・フロー計算書、明細書の作成。継続費がある場合は繰越計算書
6〜7月監査委員の決算審査への対応。資金不足比率の算定。総務省の決算状況調査(決算統計)の作成
8〜9月決算の議会認定(9月定例会が多い)。資金不足比率の議会報告と公表。決算の要領の公表
10〜12月翌年度予算の原案づくり(収益の見込み、建設改良費の積上げ、企業債の計画)。必要に応じて補正予算
1〜2月予算の査定と議案の作成。予算に関する説明書(予定キャッシュ・フロー計算書、予定貸借対照表など)の作成
3月予算の議決。年度内に終わらない工事の繰越の準備。年度末の支払・収入の確認
一般的な流れ(団体により異なる)

この流れのうち、6〜7月の決算統計は、総務省が全国の公営企業の決算をまとめる調査です。国のダッシュボードや、水道ラボの事業体カルテの数値も、この調査がもとになっています。自分たちが作ったデータが、全国比較の数字になると考えると、作業の意味が見えてきます。

つまずきやすい3つのポイント

税込と税抜が混在する

予算書の金額と、損益計算書の金額が一致しないことがあります。多くの団体では、予算は消費税を含めた金額で、損益計算書や貸借対照表は消費税を除いた金額で作るためです。数字を照合するときは、どちらの基準の数字かを必ず確かめるのが基本です。

現金の動きと損益の動きが一致しない

減価償却費や長期前受金戻入は、損益には計上されますが現金は動きません。逆に企業債の元金償還は、現金は出ていきますが損益には表れません。この違いを整理しているのがキャッシュ・フロー計算書です(キャッシュ・フロー計算書の記事)。

前年の数字の「なぜ」を説明できない

監査委員の審査や議会の質疑では、前年度との増減の理由を聞かれます。決算の数字を作り終えたら、主な科目の増減と理由を一覧にしておくと、その後の説明資料にもそのまま使えます。

最初の1年でやっておきたいこと

  • 前年度の予算書・決算書・決算審査意見書を通して読み、科目の並びに慣れる
  • 法第24条〜第30条と施行令の関係条文に、一度は目を通す
  • 自分の団体の経営比較分析表を開き、主な指標の推移を確認する
  • 規模の近い団体と、事業体カルテで指標を比べてみる

1年を通して経験すると、それぞれの業務がどうつながっているかが見えてきます。期限の決まった業務から逆算して準備することが、会計担当の仕事を回すいちばんの近道です。

参考資料

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この記事を書いた人

「Suido Lab」運営者。地方自治体の水道事業で財務・会計業務に長年携わってきた実務者です。予算編成や決算処理、起債シミュレーションなど、現場で培った知識をもとに、水道事業の財務や経営に関する情報をわかりやすく発信しています。研究発表や業界イベントへの参加経験もあり、実務と学びの両面から得られた知見を共有することを目指しています。専門的な内容をできるだけ平易に解説し、同じ立場の方々に役立つ情報を届けたいと考えています。

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