料金改定の担当になると、まず戸惑うのは「何から始めて、どこで誰の了承を得るのか」でしょう。算定そのものは計算ですが、実際の仕事の大半は、審議会、住民への説明、議会、国への届出といった手続きの段取りです。
この記事では、地方公営企業法・水道法・同施行規則・地方自治法の条文から、改定に必要な手続きを順に整理します。実例として、新潟県佐渡市の水道運営審議会の答申(令和7年7月29日)を取り上げ、審議会が何を検討したかを見ます。
料金改定に必要な手続きを条文で整理する
改定の手続きの根拠は、複数の法律にまたがっています。条文から読み取れるものをまとめると、次のようになります。
| 手続き | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 料金の原則 | 地方公営企業法第21条第2項、水道法第14条第2項第1号 | 公正妥当で、能率的な経営の下における適正な原価を基礎とすること |
| 条例の改正 | 地方自治法第228条第1項、第96条第1項第1号 | 使用料に関する事項は条例で定める。条例の制定・改廃は議会の議決事件 |
| 周知 | 水道法第14条第4項 | 供給規程を、実施の日までに一般に周知させる措置をとる |
| 国への届出 | 水道法第14条第5項、施行規則第12条の6 | 料金を変更したときは国土交通大臣に届け出る。料金の算出根拠と経常収支の概算を記載した書類を添える |
審議会や住民説明会は、これらの法律が一律に義務づけているものではありません。実務上は、各団体が条例や要綱で審議会を置き、議会に条例案を出す前に、料金の水準と根拠を第三者の目で確認するために設けています。
出発点は「適正な原価」の説明:算定の基礎を固める
料金は「能率的な経営の下における適正な原価を基礎」とすることが、法第21条第2項と水道法第14条第2項第1号に書かれています。審議会でも議会でも、問われるのは、この「適正な原価」の根拠です。
算定の考え方は、水道料金の算定の基本で整理しています。ここでは手続きの観点から、事前に用意しておくものを挙げます。
- 決算の実績と、料金算定期間(3〜5年が多い)の収支見通し
- 投資計画(更新・耐震化の事業費)と、財源の見通し(企業債、補助金、繰入金)
- 現行料金での収支の不足額(改定しない場合に何年で資金が尽きるか)
- 料金収入が必要額に足りない分を、何%の改定で埋めるかの試算
不足額の根拠は、経営戦略の改定で作る投資・財政計画とつながっていることが望ましく、計画と料金の数字が食い違うと説明が崩れます。
実例:佐渡市の審議会が検討したこと
佐渡市水道運営審議会は、令和7年7月4日付けの諮問を受け、令和7年7月29日に市長へ答申しました(佐渡市 答申書)。答申書によると、審議の経過は次のとおりです。
| 時期 | 審議の内容 |
|---|---|
| 令和6年8月28日(第1回) | 令和5年度決算、施設統合整備基本計画、水道料金改定スケジュール |
| 令和7年2月25日(第2回) | 令和7年度水道事業概要、収益確保のための取り組み |
| 令和7年5月27日(第1回) | 水道事業の経営状況、水道料金改定スケジュール |
| 令和7年7月4日(第2回) | 現状分析と料金改定(案)。同日付けで諮問 |
| 令和7年7月23日(第3回) | 料金改定、答申(案)の検討 |
| 令和7年7月29日 | 答申 |
料金の議論に入る前の約1年間に、決算や経営状況の説明を重ねている点が目を引きます。諮問の前に、委員が現状を共有する時間を取っていることが、短い期間での答申につながっていると読めます。
答申書によれば、審議会は、従来の料金体系を維持して基本料金・従量料金を一律に上げる方法で検討しました。料金収入は令和6年度に比べて令和12年度には1億1,900万円の減少が見込まれるとし、算定期間を令和12年度までの5年間として、日本水道協会「水道料金算定要領」を参照しています。比較したのは次の3つの軸です。
| 検討の軸 | 比較した案 |
|---|---|
| 改定率 | 40%(年約4億9,000万円の増収)と20%(年約2億4,000万円の増収) |
| 時期・回数 | 令和8年度に1回で20%と、令和8年度・令和10年度の2回に分けて10%ずつ |
| 基本水量 | 月5㎥、8㎥、10㎥ |
結論は、改定率20.0%を令和8年4月1日と令和10年4月1日の2回に分けて実施し、基本水量は10㎥とするものでした。13mmの一般用は、基本料金(10㎥まで)が1,887円、水量料金が1㎥につき260円(税抜)の案です。
答申の「附帯意見」は、住民説明の宿題になる
答申書には、結論に加えて8項目の附帯意見が付いています。その多くが、改定後の運用と住民への説明に関するものです。たとえば次のような内容です。
- 市民に急激な負担とならないよう配慮すること
- 十分な周知期間を確保し、改定の趣旨と内容をわかりやすく市民・事業者に周知すること
- 周知の際は、1回目と2回目の改定時期を最初に説明し、市民を不安にさせないようにすること
- 物価高騰を踏まえ、市民や事業者の声を聴くこと
- 運営経費の削減と収納率の向上に努めること
附帯意見は法的な拘束力のあるものではありませんが、議会審議や住民説明会で必ず話題になります。担当者としては、答申を受けた時点で、各意見への対応方針を一覧にしておくと、その後の説明が一貫します。
全国の水準と、自団体の位置を確認する
住民説明では「他の事業体と比べてどうか」が必ず聞かれます。国の公開データを水道ラボで集計した、全国の末端給水事業の中央値は次のとおりです。
| 年度 | 料金回収率(%) | 供給単価(円/㎥) | 給水原価(円/㎥) | 20㎥あたり料金・13mm(円) |
|---|---|---|---|---|
| 2014 | 104.5 | 173.6 | 167.1 | 2,800 |
| 2020 | 99.9 | 169.9 | 172.3 | 2,880 |
| 2024 | 98.2 | 182.9 | 185.6 | 2,953 |
2014年度に104.5%だった料金回収率の中央値は、2024年度に98.2%まで下がり、給水原価が供給単価を上回っています(背景は料金回収率が100%を割る理由を参照)。自団体の位置は事業体カルテで確認できます。ただし、中央値は地理条件や規模の違いを含むため、「全国並みだから妥当」とは言えません。比較は、類似団体の水準と合わせて示すのが無難です。
答申から届出までの流れと、段取りのチェックリスト
佐渡市の例で、答申から改定の実施までの流れを整理します。答申の日付と改定日は答申書で確認できますが、条例改正や届出の日付は答申書には書かれていないため、一般的な手順として示します。
- 審議会が答申する(佐渡市は令和7年7月29日)
- 答申を踏まえて、市が改定案と条例改正案を決める
- 議会が条例の改正を議決する(地方自治法第96条第1項第1号、第228条第1項)
- 市民・事業者へ周知する(水道法第14条第4項。実施の日までに行う)
- 改定の実施(佐渡市の答申では令和8年4月1日と令和10年4月1日)
- 国土交通大臣に料金の変更を届け出る(水道法第14条第5項。料金の算出根拠と経常収支の概算を添える)
逆算するときのポイントを、チェックリストにします。改定日から逆算して動くのが基本です。
- 改定日から逆算して、議会の会期(条例案の提出に間に合う時期)を確認する
- 審議会の開催回数と日程を決める。現状の共有に1年近くかけた例もある
- システム改修(料金計算、請求書、検針票)や、納入通知の周知に必要な期間を見込む
- 住民説明の資料に、現行料金で続けた場合の収支と、改定の根拠を載せる
- 附帯意見への対応方針を整理しておく
- 届出書に添える、算出根拠と経常収支の概算の書類を、条例案と同時に作っておく
年間の業務の中での位置づけは会計担当者の1年に、繰入金を使った負担軽減の考え方は一般会計からの繰入金に整理しています。
