水道事業の広域化の検討が進むと、会計担当者には「統合したら、うちの決算書や資産、企業債、料金はどうなるのか」という問いが回ってきます。施設の統廃合や人員の話に比べて、会計の論点は資料にまとまっておらず、何から整理すればよいか迷いやすい分野です。
この記事では、国が都道府県に策定を求めた「水道広域化推進プラン」の通知で広域化の形を確認したうえで、企業団への事業統合に向けた奈良県と大阪府の公表資料から、資産・負債の引継ぎ、料金、一般会計繰入金の扱いを読みます。どちらも統合の検討・協議の段階で作られた資料なので、確定した条件ではなく「各地で実際にどう整理しようとしているか」の例として読んでください。
広域化には、統合以外の形もある
「水道事業の広域化」と聞くと企業団への統合を思い浮かべがちですが、国の通知はもっと幅広く定義しています。総務省自治財政局長と厚生労働省の連名で、平成31年1月25日に都道府県へ出された通知「水道広域化推進プランの策定について」(PDF)によると、広域化の具体的な方策は次のとおりです。
| 形態 | 通知での位置づけ |
|---|---|
| 経営統合 | 事業統合と経営の一体化の総称。単一の経営主体が経営資源を管理するため、経営基盤の強化の効果が最も期待できるとされる |
| 施設の共同設置 | 浄水場など一部の施設を共同で設ける。経営統合が難しい地域でも、更新費用の削減などが期待できるとされる |
| 事務の広域的処理 | 事務を広域的に共同で処理する。経営統合が難しい地域でも、事務処理の効率化や技術水準の確保などが期待できるとされる |
通知は、広域化を水道法第2条の2第2項にいう「市町村の区域を超えた広域的な水道事業者等の間の連携等」に当たるものと位置づけています(e-Gov法令検索「水道法」)。同項は、都道府県にその推進に努めることを求めています。プランの策定期限は「平成34年度末」、つまり令和4年度末とされていました。
広域化が検討される背景には、小規模な事業が多いことがあります。水道ラボの事業体カルテで集計した、全国の末端給水事業の中央値(令和6年度)は、給水人口が約2万9,800人、職員数が11人でした(国の公開データを水道ラボで集計。事業体カルテ)。管路更新率の中央値は0.42%で、このペースだと全管路の更新に約240年かかる計算です。会計の面から見た広域化は、この規模の事業を一つにまとめたとき、帳簿と料金がどう変わるかの整理だといえます。
事業統合で、会計の「主体」が変わる
会計担当者にとっていちばん大きい変化は、決算の主体が変わることです。企業団は、地方自治法第284条にいう一部事務組合(市町村などがその事務の一部を共同処理するため、規約を定めて設ける組合)として設けられるのが一般的です(e-Gov法令検索「地方自治法」)。市町村の水道事業は、統合の日から企業団の事業になり、決算書も企業団が作ります。
水道法の側では、統合の形によって手続きが変わります。第11条第1項ただし書きは、水道事業の全部を他の水道事業者に譲り渡して廃止するときは、廃止の許可を要しないとし、同条第3項で、あらかじめ国土交通大臣に届け出ることを求めています。譲り受ける側は、第10条第1項第2号により、他の水道事業の全部を譲り受けることに伴う変更は認可の対象から除かれ、同条第3項で届出となります。
どの手続きに当たるかは、既存の企業団に加わるのか、新しく企業団を設立するのかなど、統合の形で変わります。具体的には都道府県や国土交通省の窓口で確認してください。会計担当者の側では、統合後は自団体の水道事業会計が終わることを前提に、最終の決算をいつ、どのように作るのかを、早めに関係部署と詰めておくことが必要です(水道ラボの整理で、資料に決まった手順があるわけではありません)。
資産・負債の引継ぎ:奈良県の「方向性(案)」を読む
奈良県では、県と27市町村が令和3年1月に「水道事業等の統合に関する覚書」を結び、県域の水道を一つの企業団に統合する検討を進めました。令和4年2月17日の「奈良県広域水道企業団設立準備協議会(第2回)資料4」(PDF)は、資産等の引継ぎの方向性を、次のように整理しています。
| 区分 | 方向性(案) |
|---|---|
| 水道事業の用に供している固定資産(土地、水道施設、ダム使用権、出資金など) | 企業団に引き継ぐ |
| 内部留保資金(損益勘定留保資金、積立金、未処分利益剰余金などの現金預金と貯蔵品) | 企業団に引き継ぐ |
| 水道事業の用に供していない固定資産 | 原則として引き継ぐ。ただし、水道以外の公用・公共用・公益事業用にすでに使っている、または基本協定の締結年度中に使う予定が決まっているものは引き継がない(無償)。引き継がない団体側で、水道会計上は特別損失の計上などの会計処理を行う |
| 負債(企業債、引当金、未払金など) | 原則として引き継ぐ。地元水利組合などとの契約債務は、企業団が引き継ぐ妥当性・必要性が認められるものに限る |
| 累積欠損金 | 原則として引き継がない。団体側で、利益剰余金、料金改定または一般会計繰入により解消する |
資料は、この方針の根拠を覚書第7条(水道事業で生み出された資産・資本・負債は企業団にすべて引き継ぐ)と第8条(水道事業の用に供さない施設・土地などは基本協定までに協議する)に置いています。
会計担当者の目線で読むと、次の3点が実務の論点になります。
- 内部留保資金も引き継ぐ対象に入っている。団体ごとの内部留保の厚みが、統合後は企業団の資金として一体になる(内部留保の考え方は内部留保資金の記事を参照)
- 累積欠損金は原則として引き継がないので、統合までに自団体で解消する計画が必要になる
- 水道に使っていない土地は、引き継ぐ・引き継がないの区分を個別に協議する必要がある。引き継がない場合は、自団体の水道会計で特別損失などの処理が要る
大阪府でも、企業団(大阪広域水道企業団)と5団体の統合案(令和6年1月統合案の修正)が公表されています(PDF)。統合する際の共通の条件として、市町村の水道事業に係る資産は、負債とあわせて企業団が無償で承継することが挙げられています。負債とセットで、無償で承継するという整理は、奈良県の案と同じ方向です。
ここで注意したいのは、奈良県の表が令和4年2月時点の「案」だということです。奈良県広域水道企業団は令和6年11月に設立され、構成団体の事業は令和7年4月に統合されました(斑鳩町「令和7年4月1日より奈良県広域水道企業団に事業統合します」)。最終的な引継ぎの条件は、基本協定や企業団の規程で確認する必要があり、この記事はその内容を確認していません。
料金:統合時の統一と、経過措置
広域化の効果は、最終的に料金に表れます。奈良県の資料は、令和3年12月に行った試算の結果を示しています。令和7年度から36年度までの30年間について、事業統合した場合と単独で経営を続けた場合の給水原価と供給単価を比べたものです。
| 令和7年度(単独→統合) | 令和36年度(単独→統合) | |
|---|---|---|
| 給水原価(加重平均) | 199円 → 170円(29円減) | 297円 → 240円(57円減) |
| 供給単価(加重平均) | 214円 → 178円(36円減) | 301円 → 241円(60円減) |
市町村別に見ると、統合の効果がある(30年間の給水原価・供給単価の積上げが単独経営より小さい)のは、葛城市と大淀町を除く25市町村でした。この2市町は、もともと料金水準が低い団体です。令和元年度の28市町村の実績を見ると、供給単価は大淀町の125円から明日香村の272円まで、給水原価は葛城市の114円から下市町の427円までと、大きな開きがありました(資料の参考表より。28市町村平均は、給水原価222円、供給単価199円)。
こうした格差のある団体を、同じ料金に揃えるのが統合の難しいところです。奈良県の「方向性(案)」では、次のように整理されています。
- 水道料金の水準・体系は統合時に統一することを基本とする
- 料金水準は、5年間の総括原価(営業費用+資本費用)で設定し、以後5年ごとに見直す
- 統合の効果が見られない市町村には、経過措置として、一定期間は本則と異なる水準・体系の料金を設定できる(案では最長30年)
実際に統合した後の姿は、斑鳩町の案内で確認できます。令和7年4月検針分から企業団の統一料金に改定され、経過措置として、統合後5年間は、現行料金と新料金を比べて、現行料金のほうが安ければ現行料金で請求されます。統一料金は、統合時に一斉に適用するのではなく、一定期間は旧料金を上限にする形で、値上がりを抑えています。
大阪府の統合案では、料金算定の扱いについて、水道事業同士なら、料金算定を一緒にしても事業運営に大きな影響がないと認められる場合は、経理区分を一つにまとめるとしています。また、財政計画の考え方として、料金は損益や資金残高を勘案し、単年度の黒字、料金改定後3年間の料金回収率100%以上、資金残高が給水収益の3か月以上、を基準に挙げています。料金算定の基本は水道料金の算定の記事、改定の手順は料金改定の進め方で整理しています。
一般会計からの繰入金は、どう整理されるか
統合は、団体ごとに積み重ねてきた一般会計からの繰入金の見直しの機会にもなります。奈良県の資料は、水道事業は地方公営企業法に基づく独立採算制を原則としつつ、各団体では地方公営企業繰出基準などに基づいて繰入が行われているとして、統合後も各団体の一般会計から企業団へ繰入してもらう考え方を示しています(繰出基準の全体像は一般会計からの繰入金の記事)。
| 経費 | 方向性(案) |
|---|---|
| 繰出基準の対象経費のうち、本来一般行政の責任で負担すべきもの(消火栓の設置・維持、児童手当など) | 対象団体から、繰出基準額を企業団へ繰入してもらう |
| 特定の地域の事情で生じているもの(高料金対策、旧簡易水道の建設改良の企業債元利償還、未普及地域の解消など) | 同上 |
| 繰出基準外で繰入してきた経費のうち、構造的要因(高低差、集落の点在など)によらないもの(企業誘致に伴う配水管整備の企業債元利償還など) | 経費が発生している間、その団体から企業団へ繰入してもらう |
一方で、地理的条件などの構造的要因で高い料金や赤字が避けられない市町村には、別の対応案が示されています。令和4年度に基本協定を締結した市町村のうち、資本費単価・給水原価・供給単価・管路延長の要件を満たす団体は、令和5・6年度に構造的要因で生じた累積欠損金(またはその回避のための借入債務)を企業団に引き継げるとされ、その代わりに、基準外の繰入は統合後は求めないとされています。
この整理から、統合前の繰入金を、基準内か基準外か、構造的要因によるものか、に分けておくことが、統合後の負担の線引きの前提になると読み取れます。団体が自らの一般会計と協議するときの材料になります。
統合の検討が始まったら、決算担当が準備すること
ここまでの資料から、会計担当者が早めに準備しておくとよい項目を整理します。いずれも、公表資料の整理の仕方を踏まえた、水道ラボの整理です。
- 固定資産台帳を最新にしておく。引継ぎ対象資産の一覧は台帳から作る(アセットマネジメントと固定資産台帳も参考になる)
- 水道事業に使っていない土地・施設を洗い出し、引き継ぐか、自団体で使い続けるかを整理する
- 累積欠損金がある場合は、解消の見通し(利益剰余金、料金改定、一般会計繰入)を示せるようにする
- 企業債の残高、借入先、償還計画を一覧にする。奈良県・大阪府の例では、企業債は負債として企業団に引き継がれる整理
- 内部留保資金の残高と、その使い道(更新財源、災害への備え)を説明できるようにする
- 一般会計からの繰入金を、繰出基準の区分ごとに整理しておく
- 料金体系(基本料金、口径別料金、従量料金の段階)を、近隣の団体と比べられる形にまとめる
- 加入金、工事負担金、手数料なども、統合時に統一する対象になる(奈良県の案)ので、現行の単価を確認する
統合の効果は、シミュレーションの前提で大きく変わります。奈良県の試算は、建設改良費、維持管理費、有収水量などの前提を置いた結果です。自団体の数字を出すときは、前提条件を示したうえで、単独経営の場合との比較を、料金(供給単価)と給水原価の両方で示すと説明しやすくなります。
