水道料金の算定の基本――総括原価と資産維持費、基本料金と従量料金の考え方

青い背景に水滴のマークを配した、水道ラボの記事画像

料金改定の検討が始まると、会計担当は「総括原価」「資産維持費」「口径別料金」といった言葉に囲まれます。審議会の資料を作る前に、料金の決め方の骨組みを押さえておくと、議論についていきやすくなります。

この記事では、法令が料金に求めている条件と、日本水道協会の「水道料金算定要領」に沿った算定の流れを整理します。

目次

法令は料金に何を求めているか

地方公営企業法の第21条第2項は、料金は「公正妥当」で、「能率的な経営の下における適正な原価を基礎」とし、健全な運営を確保できるものでなければならない、としています。水道法の第14条第2項も、供給規程の料金について同じ趣旨を定めています。

その具体的な中身は、水道法施行規則の第12条にあります。地方公共団体が経営する水道事業の料金は、次の条件を満たすものとされています。

  • イ(営業費用)とロ(支払利息と資産維持費)の合計から、ハ(給水収益以外の営業収益)を引いた額を基礎に、合理的かつ明確な根拠で設定する
  • 長期の収支の試算を行った場合は、おおむね3年後から5年後までの期間で原価を算定し、その期間ごとに見直す
  • そうでない場合は、おおむね3年を通じて財政の均衡を保てるように設定する
  • 需要者の間の負担の公平性、水利用の合理性、事業の安定性を考える

つまり、料金でまかなうべき原価(総括原価)を先に計算し、それに見合う料金表をつくるというのが、法令の求める順番です。料金回収率が100%を下回っている状態は、この原価を料金でまかなえていないことを意味します。

総括原価は「営業費用 + 資本費用」

区分中身
営業費用人件費、薬品費、動力費、修繕費、受水費、減価償却費、資産減耗費など
資本費用支払利息と資産維持費
控除するもの給水収益以外の営業収益(受託工事収益など)
水道法施行規則第12条第1号から作成

期間は、料金算定期間として定めた3〜5年ほどです。各年度の費用の見込みは、経営戦略や財政計画の推計を使います。人口減少で有収水量が減っていく見込みなら、同じ原価でも1㎥あたりの単価は上がることになります。

資産維持費は「将来の更新のために内部に残すお金」

施行規則は、資産維持費を「水道施設の計画的な更新等の原資として内部留保すべき額」と定義しています。減価償却費は過去に取得した価格をもとにした費用なので、物価が上がった今、同じ施設を造り直すにはそれだけでは足りません。その差を埋める考え方です。

「水道料金算定要領」(平成27年2月改定)は、資産維持費を、償却資産の期首と期末の平均残高に資産維持率を掛けて算定するとし、資産維持率は3%を標準としています。ただし、各事業者の施設の更新状況などを考えて決めることとされています(倉敷市の料金審議の資料、佐倉市の懇話会資料)。

実際には3%より低い率を使う団体もあります。たとえば岩手県滝沢市は、施設の創設時期などの更新状況から2.5%としています(滝沢市の審議会資料)。率を決めるときは、更新計画で見込む投資額や企業債の借入れ方針と合わせて説明できるようにしておくことが大切です。

基本料金と従量料金に分ける

総括原価が決まったら、次は料金表の形をつくります。水道料金はふつう、使った量に関係なくかかる基本料金と、使った量に応じた従量料金の2つでできています(二部料金制)。原価は、その性格によって3つに分けてから割り振ります。

原価の種類中身主に回す先
需要家費検針、料金徴収、メーターなど、利用者がいることで生じる費用基本料金
固定費施設の維持管理など、水量にかかわらず必要な費用基本料金と従量料金
変動費動力費、薬品費など、水量に比例して増える費用従量料金
佐倉市「水道料金の算定について」、滝沢市「滝沢市水道料金算定要領について」から作成

基本料金は、メーターの口径ごとに差をつける口径別料金がよく使われます。従量料金は、使う量が多いほど単価が上がる逓増型が一般的です。千葉県佐倉市の資料では、令和5年度の料金収入に占める割合は基本料金30%・従量料金70%、逓増度(最も高い単価 ÷ 最も安い単価)は3.1と示されています。

固定費を基本料金に多く回すほど収入は安定しますが、少量しか使わない世帯の負担は重くなります。安定性と負担の公平性のどちらを重く見るかが、料金体系を決めるときの論点になります。

全国の料金水準と比べる

国の公開データを水道ラボで集計すると、2024年度の末端給水事業の1か月20㎥あたりの家庭用料金(口径13mm)は、全国の中央値で2,953円でした。2019年度は2,876.5円で、5年で約3%上がっています。口径20mmでは3,229円です。

自団体の料金が全国や類似団体のどのあたりにあるかは、事業体カルテで確認できます。料金の水準だけでなく、供給単価と給水原価の推移を並べると、改定が必要になった理由を審議会で説明しやすくなります。

算定の前にそろえておきたい資料

  • 経営戦略と収支の見通し:施行規則第17条の4は、30年以上の期間で長期の収支を試算し、10年以上の収支の見通しを作って公表するよう努めること、おおむね3〜5年ごとに見直すよう努めることを定めている
  • アセットマネジメント(更新需要の推計):資産維持費や企業債の計画の根拠になる
  • 有収水量の推計:料金算定期間の給水収益の見込みに直結する
  • 近隣・類似団体の審議会資料:資産維持率や料金体系の考え方を比べられる

料金改定は、決めた料金を住民と議会に説明して初めて実現します。算定の根拠を資料で示せるように、原価の計算と料金表の設計を分けて説明すると、議論が整理しやすくなります。

参考資料

ご意見・ご質問は掲示板へ

実務での疑問や、ほかの事業体の事例など、気軽に書き込んでください。登録不要・名前なしでも投稿できます。

掲示板に投稿する
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

「Suido Lab」運営者。地方自治体の水道事業で財務・会計業務に長年携わってきた実務者です。予算編成や決算処理、起債シミュレーションなど、現場で培った知識をもとに、水道事業の財務や経営に関する情報をわかりやすく発信しています。研究発表や業界イベントへの参加経験もあり、実務と学びの両面から得られた知見を共有することを目指しています。専門的な内容をできるだけ平易に解説し、同じ立場の方々に役立つ情報を届けたいと考えています。

目次