一般会計からの繰入金――繰出基準と基準外繰入の考え方

青い背景に水滴のマークを配した、水道ラボの記事画像

予算編成の時期になると、水道事業会計の担当者は「一般会計からいくら入れてもらえるか」を、財政課や企画部門から聞かれます。逆に、一般会計の側から「水道は独立採算では」と言われることもあります。どこまでが認められた負担で、どこからが経営努力で賄うべきものなのか、根拠を持って説明できると話が早くなります。

この記事では、地方公営企業法第17条の2と同施行令第8条の5の条文、そして総務省の「令和8年度の地方公営企業繰出金について」(通知)の水道事業の部分を読み、繰入金の考え方を整理します。実例として、防府市と松戸市の公表資料の数字を見ます。

目次

原則は独立採算。例外を定めるのが法第17条の2

法第17条の2第2項は、地方公営企業の特別会計の経費は、一般会計などで負担するものを除き、その企業の経営に伴う収入をもって充てなければならないと定めています。これが独立採算制の条文上の根拠です。

その例外が第1項です。次の2つの経費で政令で定めるものは、一般会計又は他の特別会計において、出資、長期の貸付け、負担金の支出その他の方法により負担するものとされています。

  • 第1号:その性質上、当該地方公営企業の経営に伴う収入をもって充てることが適当でない経費
  • 第2号:能率的な経営を行ってもなお、経営に伴う収入のみをもって充てることが客観的に困難であると認められる経費

第1項は「負担するものとする」という書き方で、政令で定めた経費は一般会計の側が負担することが前提になっています。ここで押さえたいのは、負担の対象が政令で定めた経費に限られるという点です。

施行令第8条の5:水道事業で政令に書かれているもの

政令にあたるのが地方公営企業法施行令第8条の5です。水道事業について書かれているのは、第1項第1号の次の2つだけです(第1号経費、つまり収入で賄うのが適当でない経費)。

  • 公共の消防のための消火栓に要する経費その他、水道を公共の消防の用に供するために要する経費
  • 公園その他の公共施設において、水道を無償で公共の用に供するために要する経費

いずれも、当該経費に係る特定の収入がある場合は、その額を超える部分が対象です。第2項(第2号経費)に挙がっている事業は軌道事業と病院事業で、水道事業は含まれていません(令和8年10月時点で確認した条文。施行日は2026年9月24日)。

つまり、法令上、一般会計の負担が明文で定められているのは、消火栓と公共施設の無償給水に関する経費です。そのほかの繰入れは、次に見る総務省の通知に基づく考え方になります。

総務省の繰出基準:水道事業の9項目

総務副大臣が毎年度、都道府県知事と指定都市市長に宛てて出す「地方公営企業繰出金について」の通知は、経費ごとに、趣旨と繰出しの基準を示しています。令和8年度の通知(令和8年4月1日付・総財公第18号)の「第1 上水道事業」は、次の9項目です。冒頭には、一般会計がこの考え方に沿って繰り出したときは、その一部について地方交付税等において考慮されると書かれています。

No経費繰出しの基準(要旨)
1消火栓等に要する経費消火栓の設置・管理に要する経費、設置に伴う水道管の増設・口径の増大等に要する経費に相当する額
2公共施設における無償給水に要する経費公共施設で無償給水するための施設の設置・管理に要する経費に相当する額
3上水道の出資に要する経費国庫補助の対象となった水道水源施設・水道広域化施設に係る建設改良費の3分の1などの合計額(出資)
4上水道の水源開発に要する経費国庫補助の対象となった水道水源施設に係る水資源機構への負担金の3分の1
5上水道の高料金対策に要する経費供給単価・資本費・給水原価が一定の水準以上の事業の、資本費の一部(要件は次の見出し)
6統合水道に係る事業統合前の簡易水道の建設改良に要する経費統合前の簡易水道の建設改良で発行した企業債の元利償還金の一部
7統合水道に係る事業統合後に実施する建設改良に要する経費統合後に実施する建設改良の企業債(上水道事業分)の元利償還金の一部
8上水道の防災対策に要する経費応急給水のための設備(給水車、防災用井戸、可搬式浄水設備)の整備で発行した企業債の元利償還金に相当する額
9デジタル技術を活用した水道管路の点検・調査に要する経費地方単独事業として行う、点検・調査の委託に要する経費の2分の1
総務省「令和8年度の地方公営企業繰出金について」(総財公第18号)第1から作成

1と2が、先ほどの施行令第8条の5に対応する経費です。3以降は、建設改良や資本費の負担を軽くするために、出資や繰出しの形で一般会計が支えるものです。なお、通知は法律ではなく、毎年度の地方財政計画に合わせて出される運用上の基準で、内容は年度ごとに変わります。自団体の予算を組むときは、その年度の通知を必ず開いてください。

高料金対策の要件を数字で確認する

項目のうち、数字の要件が細かく決まっているのが5の高料金対策です。末端給水事業の場合、対象になるのは、当該年度前5年度内に経営戦略を策定又は改定している事業のうち、次の3つをすべて満たす事業です(前々年度の数字で判断します)。

指標要件
供給単価186円以上
有収水量1㎥当たりの資本費150円以上
有収水量1㎥当たりの給水原価282円以上
総務省「令和8年度の地方公営企業繰出金について」第1の5(2)ア(ア)から作成

繰出しの基準額は、有収水量1㎥当たりの資本費のうち150円を超える額に、前々年度の年間有収水量を乗じた額です。たとえば資本費が1㎥あたり170円なら、超過分の20円に年間有収水量をかけた額になります。

参考までに、全国の末端給水事業の中央値は、2024年度で供給単価が182.9円/㎥、給水原価が185.6円/㎥でした(国の公開データを水道ラボで集計)。要件の186円・282円は、中央値と比べて給水原価で大きく上回る水準です。自団体の数字がどこにあるかは、事業体カルテで自団体の供給単価や給水原価を確認できます。

また、要件に「経営戦略の策定・改定」が入っている点にも注意が必要です。経営戦略の改定作業と繰入金の見通しは、経営戦略の改定ポイントの記事でも関係を取り上げています。

実例:防府市と松戸市の繰入れの大きさ

実際の水道事業で、一般会計からの繰入れがどのくらいの規模なのかを、公表資料で見てみます。

山口県防府市は「水道事業の決算概況(令和6年度決算)」で、収益的収支の内訳を図で示しています(防府市 決算概況)。この資料によると、令和6年度の収益的収入は20億8,139万円(税抜)で、そのうち「繰出基準に基づく市からの一般会計繰入金」は178万円(収入の0.1%)でした。収入の88.1%にあたる18億3,321万円は水道料金です。

同じ資料の資本的収支では、収入の一部に「繰出基準に基づく一般会計からの出資金」が含まれていると説明されています。収益的収入の繰入金と、資本的収入の出資金は別の欄に出るため、繰入れの総額を見るときは両方を確認する必要があります。

千葉県松戸市の令和7年度の審議会資料(令和6年度決算の概要)では、水道事業会計の収益的収入の主なものとして「他会計負担金」10,750,000円が挙がっています(前年度は14,426,850円)。収益的収入の総額は1,559,834,344円(税抜)なので、割合は約0.7%です。資本的収入にも「他会計負担金」11,962,000円(税込)が計上されています(松戸市 決算概要)。

団体項目金額収益的収入に占める割合
防府市(令和6年度)一般会計繰入金(収益的収入)178万円0.1%
松戸市(令和6年度)他会計負担金(収益的収入)1,075万円約0.7%
各市の公表資料から作成。割合は防府市は資料記載、松戸市は水道ラボで計算

2つの市に共通するのは、一般会計からの収益的な繰入れが収入全体の1%に満たないことです。末端給水事業は料金収入で賄うのが基本で、繰入れは消火栓などの限られた経費が中心になっている団体が多いと考えられます(これは2市の例であり、全国の傾向を示すものではありません)。

基準を超える繰入れは、説明が必要になる

通知の基準に当たらない繰入れを、実務では便宜上「基準外」と呼ぶことがあります。通知に基づく繰入れは、一部が地方交付税等で考慮される一方、基準外の繰入れについては、総務省が経営戦略のガイドラインで次のように求めています(経営戦略策定・改定ガイドライン)。

  • 繰出金は、公営企業は独立採算制を経営の基本原則としつつ、経費負担区分に基づいて行うものであること
  • 一層の自助努力により、安易な一般会計等からの繰出金に頼らない独立採算制の基本原則に立脚した経営に努めること
  • 繰出金ごとに積算の考え方を明確にし、その必要性、将来的な見込み、合理化に向けての考え方についても説明すること

さらに、投資・財政計画で収支のギャップが生じる場合も、「安易に繰出金を増やすことで収支を均衡させることは適当ではない」とされています。つまり、料金水準の適正化や投資の合理化を先に検討し、それでも残る部分を繰入金の議論にする、という順番が求められています。料金の考え方は水道料金の算定の基本の記事で整理しています。

予算編成時のチェックリスト

  1. その年度の「地方公営企業繰出金について」の通知を開き、第1(上水道事業)の項目を確認する
  2. 消火栓の設置・管理費と、公共施設の無償給水に要する費用を洗い出し、一般会計への負担金の積算根拠を作る(法第17条の2、施行令第8条の5)
  3. 高料金対策など数字の要件がある項目は、前々年度の決算値で要件を満たすかを確認する。経営戦略が5年度内に策定・改定されているかも確認する
  4. 収益的収入の繰入金と、資本的収入の出資金・負担金を分けて集計し、繰入れの総額を把握する
  5. 通知の基準に当たらない繰入れがある場合は、必要性と将来の見通し、解消に向けた考え方を説明できるようにしておく
  6. 決算では、補てん財源との関係を見る。収支の考え方は収益的収支と資本的収支の記事や予算の流用・補正・繰越の記事を参照

繰入金は、一度ルール外で増やすと元に戻すのが難しい項目です。毎年の通知を根拠に、どの繰入れがどの条文・基準に対応するのかを一覧にしておくと、財政部門や議会への説明がしやすくなります。

参考資料

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この記事を書いた人

「Suido Lab」運営者。地方自治体の水道事業で財務・会計業務に長年携わってきた実務者です。予算編成や決算処理、起債シミュレーションなど、現場で培った知識をもとに、水道事業の財務や経営に関する情報をわかりやすく発信しています。研究発表や業界イベントへの参加経験もあり、実務と学びの両面から得られた知見を共有することを目指しています。専門的な内容をできるだけ平易に解説し、同じ立場の方々に役立つ情報を届けたいと考えています。

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