企業債の返済負担はどう測る?資金不足比率・実質公債費比率と経営分析の指標

青い背景に水滴のマークを配した、水道ラボの記事画像

水道事業の建設・更新の財源で、大きな割合を占めるのが企業債です。管路や浄水場は数十年使う資産なので、建設時の負担をその年の利用者だけに求めず、借入れで後の世代にも分けていく。企業債には、そうした世代間の負担を調整する役割があります。

一方で、返済は確実にやってきます。「この返済負担は重いのか、軽いのか」を判断するには、法律で決まった指標と、経営分析のための指標を使い分ける必要があります。なお、「企業債償還比率」という名前の指標は法令にありません。この記事では、実際に使われている指標を順に整理します。

目次

利息は3条、元金は4条から出ていく

まず、返済のお金がどこから出ていくかを押さえます。企業債の利息は収益的支出(3条)の支払利息、元金は資本的支出(4条)の企業債償還金です。

元金の返済は損益に表れないため、3条が黒字でも、4条の償還金が膨らめば資金繰りは苦しくなります。返済負担は、損益計算書だけでは分からないという点が出発点です(3条・4条の関係は収益的収支と資本的収支の記事で詳しく説明しています)。

法律で決まっている指標①:資金不足比率

公営企業そのものの財務の健全性を示す法定の指標が、資金不足比率です。地方公共団体の財政の健全化に関する法律(財政健全化法)の第22条第2項は、次のように定めています。

「資金不足比率」とは、公営企業ごとに、政令で定めるところにより算定した当該年度の前年度の資金の不足額を政令で定めるところにより算定した当該年度の前年度の事業の規模で除して得た数値をいう。

地方公共団体の財政の健全化に関する法律 第22条第2項(e-Gov法令検索)

分母の「事業の規模」は、法適用企業の場合、営業収益から受託工事収益を除いた額です(施行令第17条)。この比率が経営健全化基準の5分の1(20%)以上になると、経営健全化計画の策定が必要になります(施行令第19条、法第23条)。

ただし、法適用企業が計画の策定を求められるのは、繰越欠損金がある場合に限られます(法第23条第1項)。また、資金不足比率は「資金が足りない」状態を測る指標なので、比率が出ない(不足がない)ことが、返済に余裕があることを意味するわけではありません。

法律で決まっている指標②:実質公債費比率

実質公債費比率は、水道事業単体ではなく、自治体全体の借入れの返済負担を示す健全化判断比率の一つです。地方債の元利償還金と準元利償還金の合計から、特定の財源や交付税で措置される額を差し引き、標準財政規模で割った値の3か年平均で算定します(財政健全化法第2条第3号)。

基準数値根拠
起債許可団体の判定18%地方財政法施行令 第23条
早期健全化基準25%財政健全化法施行令 第7条第3号
財政再生基準35%財政健全化法施行令 第8条第3号

一般会計が公営企業の企業債の償還を支援している場合、その負担は自治体全体の比率にも影響します。水道事業の担当者にとっても、自団体の実質公債費比率は確認しておきたい数字です。

経営分析の指標:企業債残高対給水収益比率

経営比較分析表で、借入れの規模を見る代表的な指標が、企業債残高対給水収益比率です。枚方市の資料では、次の式で説明されています(枚方市「経営比較分析表」資料)。

企業債残高対給水収益比率(%)= 企業債現在高合計 ÷ 給水収益 × 100

経営比較分析表の指標

たとえば比率が300%なら、企業債の残高が料金収入の3年分あるという意味です。同じ資料では、企業債残高が類似団体平均の約1.1倍、給水収益が約0.8倍だったために、比率が平均より高くなったと分析しています。分子と分母のどちらが原因かを分けて見ると、改善の打ち手が変わります。

この指標には、明確な「何%以下なら安全」という基準がありません。類似団体との比較と、自団体の経年の推移で判断するのが基本です。

公開データで見る「利息の重さ」

国の水道事業等の経営状況ダッシュボードの公開データには、費用に占める支払利息の割合が載っています。全国の末端給水事業1,230事業体の2024年度決算では、この割合の中央値は3.2%でした。同じ年の減価償却費の割合の中央値は41.8%で、費用の約4割を占めています。

利息の割合は、過去の借入れの金利と残高で決まります。東京都の0.8%のように中央値を大きく下回る事業体もあれば、上回る事業体もあります。金利が上がる局面では、借換えや新規の借入れから利息の負担が増えていくため、今後の更新投資の計画とあわせて確認しておく必要があります。自分の事業体の値は、水道事業体カルテの「費用の内訳」で類似団体の中央値と比べられます。

自分で返済負担を測るなら

経営の検討資料などで、返済負担を一つの数字で示したいときは、次のような比率を自分で作ることがあります。法定の指標ではないので、資料には定義を必ず書き添えます。

比率計算読み方
元利償還金対給水収益(元金償還額+支払利息)÷ 給水収益料金収入のうち、借入れの返済に回る割合
元金償還額対減価償却費元金償還額 ÷ 減価償却費100%を超えると、内部留保資金だけでは返済が追いつかない
自作する比率の例(法定の指標ではありません)

どちらも、単年度ではなく5年程度の推移で見るのが基本です。大規模な更新工事の後は借入れが増え、数年遅れて償還が本格化するため、単年度の数字だけでは判断を誤ります。

まとめ:3つの物差しを使い分ける

  • 資金不足比率:公営企業の資金が足りているかを見る法定の指標(経営健全化基準20%)
  • 実質公債費比率:自治体全体の返済負担を見る法定の指標(18%・25%・35%)
  • 企業債残高対給水収益比率など:類似団体との比較や推移で、借入れの規模を分析する指標

法定の指標が基準を下回っていても、借入れの規模や利息の負担が類似団体より重いことはあり得ます。法定の基準は「最低限の安全網」と考え、経営分析の指標で早めに傾向をつかむことが大切です。

参考資料

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この記事を書いた人

「Suido Lab」運営者。地方自治体の水道事業で財務・会計業務に長年携わってきた実務者です。予算編成や決算処理、起債シミュレーションなど、現場で培った知識をもとに、水道事業の財務や経営に関する情報をわかりやすく発信しています。研究発表や業界イベントへの参加経験もあり、実務と学びの両面から得られた知見を共有することを目指しています。専門的な内容をできるだけ平易に解説し、同じ立場の方々に役立つ情報を届けたいと考えています。

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