年度の途中で「この工事は年度内に終わらない」「項目の間で予算を動かしたい」という場面は、水道事業の会計担当者なら必ず出会います。一般会計の感覚で「補正か、繰越明許費か」と考えると、水道事業では条文の組み立てが違うため、手続きを取り違えることがあります。
この記事では、地方公営企業法と同施行令の条文を確認し、流用・補正・繰越それぞれの根拠と手続きを整理します。後半では、仙台市の令和6年度決算説明資料の数字を使って、建設改良費の繰越が実際にどのくらいの規模で動くのかを見ます。
予算を変える手段は4つある
法第24条第1項は、地方公営企業の予算は「業務の予定量並びにこれに関する収入及び支出の大綱を定めるもの」と定めています。大綱であるため、執行の途中で変える手段が用意されています。まず、どの手段が使えるかを条文で分けて考えるのが近道です。
| 手段 | 主な根拠 | 議会 | ひとことで言うと |
|---|---|---|---|
| 流用(項間) | 施行令第18条第2項ただし書、第17条第1項第7号 | 予算に定めがあれば不要 | 予算に「流用できる」と書いてある項の間で、金額を動かす |
| 流用(議決科目) | 施行令第18条第3項、第17条第1項第8号 | 議決が必要 | 予算で指定した経費とそれ以外の間で動かす |
| 補正予算 | 地方自治法第218条第1項 | 議決が必要 | 予算を調製した後に生じた事由で、追加その他の変更をする |
| 繰越(建設改良費) | 法第26条第1項 | 事後に報告 | 年度内に支払義務が生じなかった建設改良費を翌年度に使う |
| 繰越(事故繰越) | 法第26条第2項ただし書 | 事後に報告 | 契約済みで、避け難い事故のため支払えなかったものを翌年度に使う |
| 弾力条項 | 法第24条第3項 | 事後に報告 | 業務量の増加に伴う収入の範囲で、直接必要な経費に使う |
なお、款と款、項と項の間は原則として流用できません(施行令第18条第2項本文)。この原則を押さえると、次の流用の話が分かりやすくなります。
流用:款項の壁と、予算で決める例外
施行令第18条第2項は、予定支出の経費の金額は「各款の間又は各項の間において相互に流用することができない」としています。ただし書で、各項の経費の金額は、予算の執行上必要がある場合に限り、予算の定めるところにより流用できるとされています。
「予算の定めるところにより」とあるのは、施行令第17条第1項第7号が、予算に記載する事項として「予定支出の各項の経費の金額の流用」を挙げているためです。つまり、項間流用を使いたいなら、当初予算の条文で流用できる旨を定めておく必要があります。
もう一つが議決科目です。第8号の「議会の議決を経なければ流用することのできない経費」を予算で指定すると、その経費と、それ以外の経費の間で金額を動かすには議会の議決が要ります(第18条第3項)。どの経費を指定しているかは団体ごとに違うので、自団体の予算の条文を確認しましょう。
流用は、あくまで予算に計上された範囲の中で金額を動かす手続きです。予算の総額を増やすことはできません。総額が足りないときは、次の補正予算か、後で説明する弾力条項を検討します。
補正:地方公営企業法には条文がない
地方公営企業法と同施行令には、補正予算という言葉を使った条文がありません。補正の根拠は、地方自治法第218条第1項です。普通地方公共団体の長は、「予算の調製後に生じた事由に基づいて、既定の予算に追加その他の変更を加える必要が生じたとき」に、補正予算を調製して議会に提出できます。
補正が必要になる典型は、工事の入札結果による事業費の増減、補助金の内示額の変更、災害や漏水事故への対応などです。補正では、事業費の増減に合わせて、財源である企業債や補助金、補てん財源も同時に見直す必要があります。収益的収支と資本的収支の関係は収益的収支と資本的収支の記事で整理しています。
補正予算の実例は、後で見る仙台市の資料にあります。令和6年度の資本的支出は、当初予算の234億8,301万円に対して、補正で19億4,900万円を減額しています。
繰越:建設改良費は予算に定めなくても繰り越せる
地方公営企業の繰越は、法第26条に2つの形で書かれています。
- 第1項:予算に定めた建設又は改良に要する経費のうち、年度内に支払義務が生じなかったものを、管理者が翌年度に繰り越して使用できる
- 第2項ただし書:支出予算のうち、年度内に支出の原因となる契約その他の行為をし、避け難い事故のため年度内に支払義務が生じなかったものを、管理者が翌事業年度に繰り越して使用できる
一般会計の繰越明許費は、あらかじめ予算で定めておく必要があります(地方自治法第213条第1項)。これに対し、法第26条第1項の条文には、予算で繰越を定めておくという要件が書かれていません。建設改良費は工期の変動が大きいため、管理者の権限で繰り越せる仕組みになっています。
第2項ただし書の事故繰越は、建設改良費に限らず、支出予算全般が対象です。いわき市の令和4年度予算繰越計算書を見ると、水道事業会計の事故繰越として、簡易水道事業の営業費用にあたる制御装置の修繕工事(予算計上額5,750万8,000円)が載っています。収益的支出でも事故繰越が起こりうることが分かります。
| 建設改良費の繰越(第1項) | 事故繰越(第2項ただし書) | |
|---|---|---|
| 対象 | 建設又は改良に要する経費 | 支出予算(建設改良費に限らない) |
| 要件 | 年度内に支払義務が生じなかった | 年度内に契約等をしたが、避け難い事故のため支払義務が生じなかった |
| 予算での事前の定め | 条文上は要件になっていない | 条文上は要件になっていない |
| 報告 | 管理者が長に報告し、長は次の会議で議会に報告(第3項) | 同左 |
繰越計算書の提出期限は翌年度の5月31日
繰り越した場合、管理者は地方公共団体の長に繰越額の使用計画を報告します(法第26条第3項)。報告は、繰越計算書をもって、翌事業年度の5月31日までに行います(施行令第19条)。様式は施行規則第47条で、別記第八号様式に準ずるとされています(地方公営企業法施行規則)。年間のスケジュールの中での位置づけは会計担当者の1年を参照してください。
複数年度にわたる工事に継続費を設定している場合は、別の扱いがあります。毎事業年度の支出予定額のうち支払義務が生じなかったものは、継続年度の終わりまで逓次繰り越して使用でき、継続費繰越計算書で報告します(施行令第18条の2)。
仙台市の令和6年度決算で見る、繰越の規模
仙台市水道局は、市議会の資料として「令和6年度 仙台市水道事業会計 決算説明資料」を公開しています(仙台市議会 令和7年度議案参考資料5)。予算決算比較表に、当初予算額・補正予算額・流用増減額・前年度からの繰越額・決算額・翌年度繰越額が並んでいて、予算の動きを一覧できます。
| 区分 | 当初予算 | 補正 | 前年度から繰越 | 予算合計 | 決算額 | 翌年度繰越 | 不用額 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 資本的支出 | 234.8億円 | △19.5億円 | 61.5億円 | 276.8億円 | 197.7億円 | 63.9億円 | 15.2億円 |
| 建設改良費 | 169.1億円 | △18.7億円 | 61.5億円 | 211.9億円 | 133.0億円 | 63.9億円 | 14.9億円 |
| 配水管整備事業費 | 112.8億円 | △19.9億円 | 41.7億円 | 134.6億円 | 91.5億円 | 33.3億円 | 9.8億円 |
| 施設整備事業費 | 49.6億円 | +4.2億円 | 14.7億円 | 68.5億円 | 37.1億円 | 27.6億円 | 3.8億円 |
建設改良費の予算合計は211億8,682万円で、このうち前年度から繰り越した分が61億4,880万円(29.0%)を占めています。そして、年度末には63億9,421万円を翌年度へ繰り越しています。予算合計に対する割合は30.2%です(水道ラボで計算)。
資本的支出全体では、「予算合計 = 当初予算+補正+流用増減+前年度からの繰越」が成り立ち(2,348,301万円-194,900万円+614,880万円=2,768,281万円)、「予算合計-決算額-翌年度繰越額」が不用額になります。数字の流れを自団体の決算書で追うときは、この関係を使って突き合わせるとミスに気づきやすくなります。
財源も一緒に動きます。同じ表の資本的収入では、企業債が当初予算51億1,600万円、前年度からの繰越19億2,600万円、決算40億8,400万円、翌年度繰越17億600万円です。工事を繰り越せば、その財源となる企業債も翌年度に持ち越すことになります。
収益的支出のほうには、補正と流用の欄が使われています。水道事業費用は当初予算272億1,977万円に対して、補正で7億3,000万円を減額しました。決算額は247億7,932万円です。流用増減額は、営業費用の中で減価償却費が8,545万2千円減り、資産減耗費が同額増えています。
同じ規模の他団体と、指標の面から比べたいときは、仙台市の事業体カルテから類似団体の中央値を見られます。
弾力条項:収入が増えた分だけ支出できる
もう一つ、業務量が増えたときのための条文が法第24条第3項です。業務量の増加によって業務のため直接必要な経費に不足が生じたときは、管理者は、その業務量の増加により増加する収入に相当する金額を、その経費に使えます。使ったあとは、遅滞なく長に報告し、長は次の会議で議会に報告します。
たとえば給水量の増加で受水費が当初予算を超えそうなときなどに使えます。ただし、使えるのは「直接必要な経費」で、増加した収入の範囲に限られます。施行令第18条第5項は、第24条第3項に当たる場合を除き、支出の予算がなく、予備費支出・費目流用その他の規定でも支出できないときは、支出してはならないと定めています。
実務のチェックリスト
- 予算の条文を開き、項間流用が認められているか、議決科目が指定されているかを確認する(施行令第17条第1項第7号・第8号)
- 足りないのが「項の中の目の間」か「項と項の間」か「予算の総額」かで、使う手段を分ける
- 総額が足りず、増加する収入で賄える場合は弾力条項。そうでなければ補正予算を検討する
- 工事が年度内に終わらない見込みなら、1〜2月のうちに、繰越の対象額と財源(企業債・補助金)を整理する
- 3月末に支払義務が生じていない建設改良費は、法第26条第1項の繰越になる。契約済みで事故により遅れたものは、第2項ただし書の事故繰越かを確認する
- 翌年度の5月31日までに、繰越計算書(別記第八号様式に準ずる)を長に報告する
繰越額が大きい団体では、翌年度の当初予算に「前年度からの繰越額」が乗り、予算の見かけの規模が大きくなります。損益や資金の見通しを立てるときは、繰越の影響を切り分けて読むことが大切です。
