この記事の概要:人口減少や老朽化に直面する水道事業において、デジタル技術(DX)がどう活かされているのか? 本稿では、> 会津若松市と佐賀市の2つの先進事例を紹介します。AIや衛星データを使った管路診断や、自治体とスタートアップが協働する漏水リスク調査など、> 現場の課題を技術で乗り越えようとする挑戦がわかります。
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はじめに
日本の水道インフラは高度経済成長期に整備されたものが多く、法定耐用年数を超えた管路が全国で約17万kmにも及びます。人口減少による水需要の低下や職員の高齢化もあり、経営基盤は脆弱化しています。
こうした課題に対し、各自治体ではIoT・AI・衛星データなどを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)が進められています。ここでは会津若松市と佐賀市の取り組みを取り上げ、従来の水道運営をどう変えようとしているのかを見ていきます。
事例① 会津若松市 – AIと衛星データで配水管の状態を「見える化」
背景と課題
福島県会津若松市では、人口減少に伴う水需要の減少と老朽管の漏水増加によって有効水量・有収水量の低下が課題となっていました。工事監督員や技術者の減少により、水道施設の維持管理に多くの時間と費用が掛かることも懸念されています。
取り組みの概要
会津若松市は「水道DX」の一環として、以下のようなデジタル技術を導入しています:
- AIを活用した管路劣化度調査 – 土壌・地質・地下水・交通量・人口など9種類のビッグデータに 市の管路台帳や漏水履歴を組み合わせ、AIで劣化度を診断。 漏水の危険が高い管路が「見える化」され、更新計画の優先順位付けに活用されています。
- 衛星画像解析による管路診断 – 2023年度には近隣の3事業体と連携し、 衛星画像解析技術によって約1,214kmの管路状態を調査しました。 この取り組みは2024年の日本水道協会東北地方支部の事例発表会で 「MIP賞」を受賞し、広域連携による効率的な診断手法として注目されています。
- スマートメーターと小ブロック化による漏水管理 – 配水区域を小ブロックに分け、 各ブロックの注入点にφ100〜300mmのスマートメーターを設置。 NB‑IoT回線で1時間ごとに配水量を送信し、配水量と使用量を比較することで 漏水の多いブロックを特定し、最適な管路口径の検討や漏水調査の優先順位付けに活用しています。
得られた成果と効果
AI診断により劣化度の高い管路が可視化されたことで、更新計画の合理化や維持管理費の削減が期待されています。衛星画像解析の共同事業は広域連携によるデータ取得コストの低減や技術習得の共有にもつながりました。スマートメーターの導入で各ブロックの水需要特性が把握でき、漏水管理の効率化や配水管のダウンサイジングが可能になりつつあります。
事例② 佐賀市 – スタートアップと協働した漏水リスク診断と住民参加型DX
背景と課題
佐賀市上下水道局は2026年で創設110周年を迎えますが、人口約23万人が20年後には20万人を切ると予測され、水道料金収入の減少が懸念されています。法定耐用年数40年を経過した管路は全体の約20%に達し、従来の事後対応型の漏水調査だけでは持続可能な事業運営が難しい状況でした。
取り組みの概要
佐賀市はスタートアップ企業「天地人」が提供する衛星データ×AIによる漏水リスク評価サービス「宇宙水道局」を採用しました。同サービスでは衛星観測データや地質・人口などのオープンデータ、水道管路情報をマルチモーダルAIで解析し、100m四方ごとに漏水リスクを5段階で評価します。漏水の可能性が高いエリアを地図上で可視化することで、音聴調査や管路更新の優先順位を合理的に決められます。
佐賀市の導入計画は3年間を1サイクルとし、- 2025年度:リスク診断を実施、- 2026年度:診断結果に基づき漏水調査を開始、- 2028年度以降:検証結果を踏まえてサイクルを継続していきます。
市は漏水率を現在の5.8%から5.6%へ、有収率を91.3%から91.5%へと段階的に改善する目標を設定しました。
さらに、リスク診断の結果を市民向けウェブページで公開し、住民も漏水発見に参加できるようにする取り組みを計画しています。新システム導入にあたり、紙の地図と衛星データを組み合わせて活用方法を議論する「水道DXワークショップ」を開催し、ベテラン職員の経験と新技術を組織知として共有する仕組みも整えていますs。
得られた成果と期待効果
衛星データとAIによるリスク評価により、従来の巡回調査では見逃していた漏水箇所を事前に絞り込めるようになり、点検費用最大65%、調査期間最大85%の削減効果が実証実験で示されています。佐賀市はこの技術を活用し、漏水率と有収率の改善に加えて、住民参加による透明性の高い運営と、職員の技術継承を図ることを目指しています。
おわりに
会津若松市のケースでは、自治体自らがAIや衛星データ、スマートメーターなど複数のデジタル技術を組み合わせて水道インフラの状況を「見える化」し、更新投資を最適化している点が特徴的でした。一方、佐賀市はスタートアップと協働することで最新の衛星データ解析技術を取り込み、住民参加型の事業モデルを構築しようとしています。
どちらの事例も、データに基づいた意思決定と人材・組織の学習を重視していることが共通点です。水道事業のDXは単なる設備投資ではなく、自治体・企業・住民が連携して持続可能な水インフラを支える取り組みだと言えるでしょう。
情報ソース
- 会津若松市公式サイト「水道DXの取組み~持続ある水道の実現するために~」(会津若松市)city.aizuwakamatsu.fukushima.jp
- 国土交通省「IoT・新技術活用推進モデル事業(会津若松市上下水道局)」mlit.go.jp
- 天地人公式サイト「導入事例 佐賀市様 – 『宇宙水道局』を活用し漏水リスク診断へ」(佐賀市上下水道局インタビュー)suido.tenchijin.co.jp
- 宇宙水道局サービス紹介ページ「維持管理課」suido.tenchijin.co.jp

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