有収率は、経営比較分析表にも載っている身近な指標です。ところが「有収率を上げると、財務の数字はどれだけ良くなるのか」と聞かれると、すぐには答えにくいものです。漏水対策の予算を要求するときや、分析欄を書くときに、この説明が必要になります。
この記事では、まず有収率の定義と全国の状況を確認します。そのうえで、山口県防府市と静岡県島田市の決算資料の数字を使い、有収率の改善が費用にどう効くのかを試算します。結論を先に言うと、漏水を減らしても料金収入は増えません。効果は「配る水を減らせること」から生まれます。
有収率は「配った水のうち、料金になった割合」
総務省の「経営指標の概要」では、有収率を年間総有収水量 ÷ 年間総配水量 × 100で計算し、「施設の稼動が収益につながっているかを判断する指標」と説明しています(総務省「経営指標の概要(水道事業)」)。数値が低い場合は、漏水やメーター不感などの原因を特定し、対策を講じる必要があるとしています。
配水量の内訳は、次のように整理されます。有収率が100%にならないのは、漏水だけが理由ではありません。
| 区分 | 中身 |
|---|---|
| 給水量(配水量) | 有効水量+無効水量 |
| 有効水量 | 有収水量+無収水量 |
| 有収水量 | 有効水量のうち、料金徴収の対象となる水量 |
| 無収水量 | 管洗浄用、公衆便所用、公衆飲料用、消防用などの水量や、メーター不感水量など、料金徴収の対象とならない水量 |
| 無効水量 | 配水管からの漏水による損失水量など |
有収率を上げる方法は、漏水(無効水量)を減らすことと、メーターの不感などで料金にならない水(無収水量)を減らすことの2つです。自団体でどちらの割合が大きいかは、配水量の内訳を見るとわかります。
全国の有収率は少しずつ下がっている
国の公開データを水道ラボで集計すると、末端給水事業の有収率の中央値は、平成26年度(2014年度)の86.4%から、令和元年度は85.7%、令和6年度は84.4%と少しずつ下がっています。令和6年度は、集計できた1,230事業体のうち411事業体(33.4%)が80%未満で、90%以上は353事業体(28.7%)でした。
規模で分けると、違いがはっきりします。給水人口が小さい事業体ほど、有収率は低い傾向があります。
| 給水人口 | 事業体数 | 有収率の中央値 |
|---|---|---|
| 1万人未満 | 238 | 78.4% |
| 1万〜3万人 | 383 | 80.9% |
| 3万〜5万人 | 194 | 85.5% |
| 5万〜10万人 | 185 | 88.6% |
| 10万〜30万人 | 162 | 91.1% |
| 30万人以上 | 68 | 91.7% |
ただし、事業体どうしを比べても、有収率の差だけで給水原価の差は説明できません。たとえば給水人口10万〜30万人の事業体では、有収率80%未満の10事業体の給水原価の中央値(147.95円/㎥)は、90%以上の89事業体(161.0円/㎥)より低くなっています。給水原価は、水源の種類や受水の有無、地形などの影響を強く受けるためです。有収率の効果は、事業体カルテで自団体の推移を確認したうえで、自団体の数字で考えるのが確実です。
漏水を減らしても、料金収入は増えない
ここが一番大事な点です。有収水量は、使う人の需要で決まります。漏れていた水は誰も料金を払っていないので、漏水を止めても有収水量は増えません。有収率の改善で変わるのは、収入ではなく「配る水の量」です。
同じ有収水量を届けるのに必要な配水量が減ると、次の費用が下がります。
- 動力費:取水・送水・配水のポンプの電気代のうち、水量に応じて増減する部分
- 薬品費:浄水処理に使う薬品の量
- 受水費:用水供給事業から水を買っている場合の、水量に応じて払う部分
一方で、減価償却費、人件費、委託料の多く、支払利息などは、配水量が少し減っても変わりません。受水費も、契約の料金体系(基本料金と使用料金の分け方)によっては、配水量を減らしても下がらない部分があります。自団体の受水契約で確認しておきましょう。
給水原価は「費用 ÷ 有収水量」で計算します(総務省「経営指標の概要(水道事業)」)。有収率が上がっても分母の有収水量は変わらないので、給水原価が下がるのは、分子の費用が減った分だけです。料金回収率が100%を割る理由で見た「給水原価」の改善策として有収率を考えるときは、この点に注意が必要です。
試算:防府市の決算で「1ポイント」の効果を計算する
山口県防府市の令和6年度決算では、年間総配水量が12,400,060㎥、年間総有収水量が11,543,108㎥で、有収率は93.1%でした。損益計算書の支出のうち、水源地やポンプ所の電気料金と薬品費をまとめた「動力・薬品費」は1億1,396万円(税抜)です(防府市「水道事業の決算概況(令和6年度決算)」)。
この数字を使い、有収水量はそのままで、有収率が1ポイント上がった場合を試算します。動力・薬品費は配水量に比例すると仮定します(実際には電気料金の基本料金など、水量で変わらない部分もあるので、試算の結果は多めに出ます)。
| 項目 | 数値 | 計算 |
|---|---|---|
| 年間総配水量 | 12,400,060㎥ | 決算資料 |
| 年間総有収水量 | 11,543,108㎥ | 決算資料 |
| 有収率 | 93.1% | 決算資料 |
| 配水量1㎥あたりの動力・薬品費 | 約9.19円 | 1億1,396万円 ÷ 12,400,060㎥ |
| 有収率94.1%に必要な配水量 | 約1,226.7万㎥ | 11,543,108㎥ ÷ 0.941 |
| 減らせる配水量 | 約13.3万㎥(約1.1%) | 12,400,060㎥ − 約1,226.7万㎥ |
| 減る動力・薬品費 | 約122万円 | 約13.3万㎥ × 約9.19円 |
| 給水原価への影響 | 約0.1円/㎥の低下 | 約122万円 ÷ 11,543,108㎥ |
給水人口約10万人の事業で、有収率1ポイントの改善による費用の削減は、年間で約120万円という計算になります。有収率がすでに高い事業体では、費用の削減だけで漏水対策の効果を説明するのは難しいことがわかります。こうした事業体では、次の章で見る金額以外の効果が説明の中心になります。
有収率が低い事業体では、配水量の差が大きくなる
静岡県島田市の令和6年度決算では、年間配水量が11,725,950㎥、年間有収水量が8,536,375㎥で、有収率は72.8%でした(島田市「令和6年度 島田市水道事業 決算概要」)。料金にならなかった水は年間約319万㎥で、配水量の27.2%にあたります。
有収水量はそのままで有収率を80%にできた場合、必要な配水量は約1,067万㎥となり、約106万㎥(約9.0%)少なくて済みます。仮に配水量1㎥あたりの変動費が10円なら、年間約1,060万円の削減です。有収率が低いほど、1ポイントあたりに減らせる配水量は大きくなるので、費用の面からも対策の意味が出てきます。島田市で1ポイント(72.8%→73.8%)上げた場合に減らせる配水量は約15.9万㎥で、防府市の約13.3万㎥より多くなります。
島田市の決算概要では、経常利益が前年度より約4,296万円減った主な要因として、電気料金の単価上昇による動力費の増加(約1,335万円)や、漏水修繕件数の増加による修繕費の増加(約480万円)が挙げられています。電気料金が上がると、配水量1㎥あたりの動力費も上がり、同じ漏水でも損失は大きくなります。国の公開データでは、島田市の有収率は平成26年度の79.6%から下がり、給水原価は95.7円から125.1円に上がっています(島田市の事業体カルテ)。
金額以外の効果と、対策の費用の考え方
有収率の改善には、毎年の費用の削減のほかにも効果があります。財務の説明では、次の点を合わせて示すと説得力が増します。
- 施設の規模:同じ有収水量を少ない配水量で届けられれば、浄水場や配水池、ポンプを更新するときに規模を見直しやすくなる
- ピーク時の負担:防府市では、令和5年1月25日に凍結災害に伴う漏水の影響で一日配水量が43,316㎥となり、同じ年度の夏季最大(37,674㎥)を約15%上回った
- 施設利用率の読み方:総務省は、施設利用率が高くても有収率が低ければ収益につながらないため、早急な対策が必要としている
- 水源の余裕:配水量が減れば、取水量や受水量にも余裕が生まれる
対策の費用を抑える工夫も広がっています。山梨県都留市は、有収率が水道事業で66.38%(令和5年度末)と低く、人工衛星を使った漏水調査を、富士吉田市・甲府市などと合わせた県内10市町で合同で行う事業を進めています。市が単独で行うより、漏水調査費のスケールメリットがあると説明しています(国土交通省「上下水道DX推進事業(都留市上下水道課)」)。区域を小さく分けて漏水の多い場所を絞り込む方法は、会津若松市と佐賀市の水道DXでも紹介しています。
費用対効果を比べるときは、次の順で整理すると、予算要求の資料にそのまま使えます。
- 配水量の内訳(有収水量・無収水量・無効水量)を年度ごとに並べ、どこが増えているかを確認する
- 動力費・薬品費・受水費(水量に応じて払う部分)を配水量で割り、1㎥あたりの変動費を出す
- 対策で減らせる見込みの水量に、1㎥あたりの変動費を掛けて、年間の削減額を出す
- 漏水調査や修繕の費用と比べ、金額以外の効果(施設規模、ピーク時の負担など)を添える
分析欄や説明資料での書き方
経営比較分析表の分析欄では、有収率を単独で書くより、配水量・有収水量の動きと、費用への影響をセットで書くと伝わりやすくなります。たとえば次のような書き方です。
有収率は○%で、前年度より○ポイント低下した。有収水量は前年度並みだったが、漏水の増加で配水量が○万㎥増えた。配水量1㎥あたりの動力・薬品費は約○円で、年間約○万円の費用増にあたる。今後は漏水の多い配水区から重点的に調査を行う。
分析欄の記載例(水道ラボ作成)
有収率の目標を経営戦略に盛り込む場合は、投資試算の中で漏水対策の費用と、配水量の減少による費用の削減を両方見込みます(経営戦略の改定ポイントを参照)。類似団体と比べた自団体の位置は、事業体カルテの有収率の推移で確認できます。防府市のカルテはこちらです。
