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DXを起爆剤にした水道事業改革 ― 収入減・老朽化・職員減の三大課題を解く

この記事の概要
水道事業は今、大きな転換期を迎えています。この記事では、収入減・老朽化・職員減という三つの課題をわかりやすく整理し、デジタル技術がどのように解決策となりうるのかを解説します。国や自治体の最新の取り組みや、具体的な技術導入例もご紹介します。

読了時間:6分

目次

はじめに – 水道事業が抱える三大課題

身近な水道サービスは当たり前に蛇口から安全な水が出ることで成り立っていますが、運営側では大きな課題が山積みです。施設の老朽化や現場職員の減少、人口減少に伴う収入の減少などが重なり、経営はかつてないほど厳しいものになっています。

とくに注目したいのは、約3割もの水道事業が原価割れで運営されていること、四分の一の管路が法定耐用年数を超えていること、さらに職員数10名以下の事業体が半数近くを占めることです。これらはすべて水道サービスの持続性を脅かす大きな要因で、従来の対応策だけでは追いつきません。

今後も安心して水が使えるようにするためには、業務や働き方を抜本的に変えるデジタルトランスフォーメーション(DX)が欠かせません。このあと、DXを推進する国の取り組みや、最新技術の動向を見ていきましょう。

国のDX施策とデータ活用

水道経営ダッシュボードの役割

デジタル庁は総務省や国土交通省と連携し、「水道事業等の経営状況ダッシュボード」を公開しています。2025年8月21日に最新データへ更新されたこのサイト(digital.go.jp)では、全国の水道事業の経営指標をひと目で確認できます。

持続可能な経営を実現するには、収益性や資産運用などの財務状況と、施設の老朽化や耐震化、運営効率といった施設状況を総合的に把握する必要があります。ダッシュボードでは、これらの指標を次のように分類し可視化しています。

  1. 基本情報 – 給水人口や給水面積など、事業規模や対象地域を示す数値。
  2. 財務の状況 – 料金回収率や給水原価、流動比率など、収入と支出の健全性を示す数値。
  3. 施設の状況 – 管路経年化率や耐震適合率、施設利用率など、設備の老朽化や耐震化、運営効率を示す数値。

これらのデータを組み合わせることで、自治体や水道企業は自分たちの経営状態を客観的に把握し、類似団体と比較したり、年次推移から改善策を検討したりできます。データに基づいて説明責任を果たすことで、市民との信頼関係も築きやすくなります。

国土交通省のDX推進検討会と財政支援

DX推進は制度面でも加速しています。国土交通省は2024年12月に「上下水道DX推進検討会」を設置し、サービスの持続性を確保するDX方策を議論し始めました。また、政府のデジタル行財政改革会議では、自治体がデジタルソリューションを導入しやすいよう地方債発行を可能にする制度改正が検討されています。こうした支援により、高額な初期費用を抑えつつ新技術を導入できる環境が整いつつあります。

DXソリューションの最新動向

三大課題への技術的アプローチ

上下水道業界の課題を解決する切り札として、DXの導入が注目されています。EYが主催したセミナーでは、DXを起爆剤として業務を大きく効率化し、広域連携で組織力を強化する必要性が強調されました。自治体がDXを導入する際には、明確な戦略やビジョンを描き、トップダウンとボトムアップの双方から推進体制を整えることが大切だとされています。

特に官民連携事業は、民間のノウハウや資金を活用しながらアセットマネジメントを高度化する有効な方法です。これにより、維持管理データの構築や施設劣化の予測・見える化が可能になり、長期的な運営計画を立てやすくなります。

技術面では、ロボティクス、AI、デジタルツイン、センサーなどが幅広く使われています。これらの技術は情報の連携・収集や自動化、予測・検知といった機能を持ち、アセットマネジメントの高度化、危機管理の向上、技術継承、サービスの質向上など、多くの目的に活用されています。最近では実証段階から実運用へと移行する例も増えており、効果が確認されつつあります。

JICAの報告書にみる海外の事例

国際協力機構(JICA)のDX Labは2025年に、上水道事業の持続可能性と効率性向上を目指す戦略的な報告書『Digital Transformation for Growing Water Utilities』を発表しました。この報告書では、無収益水(Non‑Revenue Water)の削減、老朽化設備の管理、財務健全化といった課題に対し、AIやIoT、スマートメーターを使ってリアルタイム監視や予測保守、効率的な資源配分を実現する方法が紹介されています。

さらに、各事業体の成熟度に応じたデジタル変革を進めるための評価フレームワークや最適なシステム構成、導入ステップやケーススタディも盛り込まれており、実践的なガイドとなっています。こうした知見は日本国内の水道事業者にも参考になるでしょう。

地域で取り組むべきことと今後の展望

ビジョンと推進体制を整える

水道事業のDXを進める第一歩は、自らのビジョンと戦略を明確にし、推進体制を整えることです。担当者のスキル向上や部門横断のプロジェクトチームの設置など、組織としてDXを支える仕組みづくりが不可欠です。

官民連携と広域連携を活かす

官民連携事業を活用すると、民間企業の技術や投資を取り入れつつ、事業効率化やアセットマネジメントの高度化を図れます。また、複数の自治体が広域で連携することで規模の経済を活かし、施設の統廃合や運営の最適化を進めることができます。

技術導入と改善の具体例

スマートメーターによる水使用量のリアルタイム監視、AIを使った漏水検知システム、デジタルツインによる配管ネットワークのシミュレーション、ドローンやロボットによる施設点検など、実務を改善する多彩な技術が登場しています。これらは非収益水の削減や設備の延命、災害時の早期復旧に効果を発揮し、JICAの報告書にも多数の事例が紹介されています。

市民に寄り添った説明と参加促進

DXは技術だけでなく、人とのつながりにも影響します。ダッシュボードで公開されている指標を用いて経営状況をわかりやすく説明することで、市民の理解と協力を得やすくなります。また、データを基に料金改定や設備投資の必要性を説明することが、信頼関係の構築につながります。

おわりに

水道事業は地域の生命線です。その持続性と安全性を守るためには、DXを積極的に取り入れ、データに基づく意思決定と技術革新を進めることが重要です。国や自治体、民間企業、国際機関など様々な主体が力を合わせ、明確な戦略と柔軟な制度のもとでDXを推進することで、これからも安心して水を使える社会が実現するでしょう。ぜひ、自分の住む地域の水道事業がどのような状況にあるのかダッシュボードで確認してみてください。

参考文献(情報ソース)

  • デジタル庁『水道事業等の経営状況ダッシュボード』digital.go.jp) – ダッシュボードの概要、最新更新日、指標分類に関する情報。
  • EY Japan『DXで変える水の流れ〜上下水道におけるDX、イノベーションの方向性を考える』ey.comey.com) – 三大課題の説明と解決策、DX推進のポイント、最新の技術動向を紹介。
  • JICA DX Lab『Digital Transformation for Growing Water Utilities』公開記事jica.go.jp) – 無収益水の削減やAI・IoT活用による解決策、デジタル成熟度評価フレームワークについて。
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この記事を書いた人

「Suido Lab」運営者。地方自治体の水道事業で財務・会計業務に長年携わってきた実務者です。予算編成や決算処理、起債シミュレーションなど、現場で培った知識をもとに、水道事業の財務や経営に関する情報をわかりやすく発信しています。研究発表や業界イベントへの参加経験もあり、実務と学びの両面から得られた知見を共有することを目指しています。専門的な内容をできるだけ平易に解説し、同じ立場の方々に役立つ情報を届けたいと考えています。

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